今年度から5年生はみんな1週間感染症内科を回る。前年度は総合診療科を回りながらだったので集中しづらかったしタスクも大変だったが、今年度はかなり勉強してもらっている。6人で結核についてまとめてもらった。その成果の抜粋。まあ、少しくらいの間違いは大目に見て、全体的にはよく勉強したと思う。学生なら、結核についてこれくらいシットキャ、十分だ。文献検索の方法論も覚えてもらったし、ちゃんと英語の文献にも当たれるようになった。1週間で大きな進歩だ。ご苦労さん。
結核の臨床症状について
まずはじめに
世界には毎年約1000万人弱の新規患者がおり、死亡者数は170万人に達する(2006年WHO).日本においても年間24000人(2008年)の患者がおり、その基礎疾患によってrelative riskも異なる。
したがって下記の臨床症状と危険因子から早期発見に努めることが重要である。
結核は驚くほど非典型的な臨床像を呈することが多い。まずは「結核を合併しやすい臨床症状=細胞性免疫不全をきたす臨床症状」を理解する。
臨床症状
結核は肺結核、肺外結核、あるいはその両者に分類される。
肺結核
肺結核は一次結核と二次結核に分類される。
○一次結核:通常無症状。しばしば小児に起こり、中肺野または下肺野に限局していることが多い。急速に進行しやすく、しばしば胸水を認める。腫大したリンパ節は気管支を圧排し閉塞したり、引き続いて区域または肺葉の無気肺を起こす。部分的な閉塞は閉塞性肺気腫を起こしたり、気管支拡張をもたらす。
○二次結核:潜在性感染の再燃。通常は肺尖部や上葉の後部に限局し、加えて下葉の上部の肺葉がしばしばおかされる。病初期には自覚症状や他覚所見は非特異的であるが、進行すると発熱、体重減少、食欲不振、全身倦怠感、衰弱、血痰などが見られる。病気が広範囲になると呼吸困難となり、ARDSを引き起こすこともある。
身体所見では、多くの患者は胸部診察では異常所見が発見されない。しかし、これらの所見が認められなくても下記危険因子を持つ患者では、常に鑑別に考えておく必要がある。
肺結核を疑えば、まずは陰圧個室に隔離し、排菌性か否かの確認をすることが重要である。
肺外結核
肺外結核はリンパ節、胸膜、尿生殖器、腸、
骨と関節、髄膜、腹膜、心膜などに起こるが、
実際にはすべての臓器を侵しうる。
代表的なものとして、リンパ節結核は肺外結核で
最も多く(肺外結核の25%以上)、リンパ節の
無痛性腫脹を呈し、多くは頸部または鎖骨上窩
リンパ節に出現。全身症状はHIV感染者に
限られ、肺病変を伴ったり伴わないこともある。
参考文献:ハリソン内科学第3版、
レジデントのための感染症診療マニュアル
【結核の診断】
確診 病変部位の検体から結核菌を検出し、結核感染が臨床像と合致するか?
診断の流れ
臨床所見から結核を疑う患者には早期に胸部Xpをして、結核を疑う。
・典型的には境界不明瞭な浸潤影、境界明瞭な結節性陰影、空洞を伴う結節像など
・主要病変部としては肺尖部が多く、S1/S2 (80%),S6(10%), その他(10%)1)
3回の喀痰検体から抗酸菌染色塗抹検査と培養検査を行い菌の有無を確認する。
・ 連続して3回喀痰を採取する場合、8~24時間間隔で採取(最低1回は早朝採取)
・ 1回の抗酸菌染色塗抹検査の感度は45~80%、3回で90%以上2)
培養の感度は80~85%であり、特異度は約98%である3)
培養検査は薬剤耐性も判定できる
喀痰検体の結核菌PCR検査は24~48時間で結果が得られる。
・ 死菌やコンタミによる擬陽性もあり
・ 結果が陰性であっても結核を否定できないため、塗抹・培養検査を併用
・ PCR検査は塗抹陽性時には非結核性抗酸菌と結核菌の判定(>95%)に有用
・ 塗抹陰性で培養陽性となる検体については50~80%の可能性で検出3)
徴候から高度に結核が伺われるにも拘わらず、喀痰検査等が陰性の場合は気管支鏡や肺胞洗浄などによりサンプルを採取し検査を行う。
Ex)
クォンティフェロンTB-2G(QFT)6)
結核菌に特異的なESAT-6,CFP-10蛋白抗原を全血に添加して,血液中のエフェクターTリンパ球を刺激し放出されるインターフェロンγを定量するシステム。
・現在のみならず過去の結核感染があれば陽性に(どの程度で陰性化するかは不明)
・結核菌に絶対感染していないという集団が無い為、正確な感度・特異度は判定不能
・排菌のある結核患者との接触者検診や医療従事者のスクリーニングには有用?
ツベルクリン反応
皮下にツベルクリン抗原を注射し、48〜72時間後の最大硬結径を測定する。
感染リスクに応じて、三つの異なる硬結の直径がそれぞれ有意となる。(米国感染症学会ガイドライン)
5㎜径= 既知の活動性結核と最近接触した人、HIV感染者、免疫抑制患者、陳旧性結核
10㎜径= 結核蔓延国からの移民、経静脈薬物使用者、4歳未満の小児、曝露リスクの高い労働者or居住者
15㎜径= それ以外のすべての人々
参考資料
Fraser and Pare’s, Diagnosis of Disease of the chest, 4th ed, Muller WB Saunders 1999.
Shingadi, a, D, Novelli, V. Diagnosis and treatment of tuberculosis in children. Lancet Infect Dis 2003; 3:624.
Diagnostic standards and classification of tuberculosis in adults and children. Am J Respir Crit Care Med 161 : 1376-1395, 2000
Updated guidelines for the use of nucleic acid amplification tests in the diagnosis of tuberculosis. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2009; 58:7.
Up to Date
日本結核病学会予防委員会「クォンティフェロン(R)TB-2Gの使用指針」http://www.kekkaku.gr.jp/ga/ga-35.html
【結核の治療】
原則1;感受性のある有効な抗結核薬を用いる ・薬剤抵抗性結核菌の選択的増殖を阻止
原則2;複数併用する ・半休止菌をできるかぎり殺菌し治療終了後
原則3;規則正しく投与する の再発率を抑制する
原則4;一定期間投与を継続する
また、化学療法の成否は管理の妥当性と患者の良好な*adherenceにかかっている。したがってどのような患者でもadherenceをモニターし、adherenceの確保に努め、問題が生じた際には適切な介入が必要である。 *Adherenceは処方通りの規則的な内服と治療継続の二面を指す。
・DOT(directory observed treatment);直接監視下服薬療法
治療中断のリスクの高い患者ではDOTの施行を考慮する。DOTは医療従事者あるいは所轄
責任者の監視下で抗結核薬を服薬させることである。
第一選択薬
①イソニアジド(INH)
〈役割〉分裂の盛んな菌に対し、早期に強い殺菌作用を有することが知られている。
〈副作用〉無症候性アミノトランスフェラーゼ(AST/GOT)の上昇、薬剤性肝炎、VitB6吸収障害
②リファンピシン(RFP)
〈役割〉抗菌力は、分裂の盛んな菌に対し活性を持ち、また、休眠状態の菌に対しても活性を有している。リファンピシンはすべての短期化学療法の基本薬剤である。
〈副作用〉皮疹、胃腸反応(嘔気、食欲不振、腹痛)、感冒様症状、肝毒性
③エタンブトール(EB)
〈役割〉最初からイソニアジド耐性が存在する場合、リファンピシン耐性出現の危険を避けるため、初回治療に含まれている。視力が測定できない小児に対しては、定期使用は推奨されない。
〈副作用〉球後神経炎(視力低下、赤緑色分別の低下)
④ピラジナミド(PZA)
〈役割〉この薬はマクロファージに貪食されていたり、乾酪巣のような酸性環境で休眠状態でいる菌体に対し、最も活性を発揮する。排菌陰性化を早める。また、短期化学療法の基本薬剤である。
〈副作用〉肝毒性、胃腸障害(嘔気、嘔吐)、非痛風性多発性関節炎、無症候性高尿酸血症、
急性痛風性関節炎
治療の流れ
初期8週間…INH・RIF・PZA・EBの4剤併用投与 → その後4ヶ月…INH・RIFの2剤投与
<参考文献>ハリソン内科学第3版、WM感染症科コンサルト、レジデントのための感染症診療マニュアル、
結核診療プラクティカルガイドブック、結核・非結核性抗酸菌症診療ガイドライン
→直接監視下服薬療法(DOT)を検討
医療従事者あるいは所轄責任者の監視下で抗結核薬を服薬させること
・耐性その他の問題がなければ基本的にイソニアジド(INH)を治療の中心とする。
初期8週間…INH/RIF/PZA(最初の2ヶ月で中止可能)/EMB(感受性検査で他に耐性がなけ れば中止可能)の4剤併用投与。
連日投与で総投与数56回
その後4ヶ月…INH/RIFの2剤投与(毎日or週2,3回)
再発が多い症例、すなわち初期の治療2ヶ月を終えた時点で培養が陽性である例、空洞形成例では9ヶ月の処方になっている。
・肺外結核の治療期間 ・主な副作用 イソニアジド(INH)…肝機能障害
リファンピシン(RFP
…過敏性反応(紅潮、掻痒 感5%程度)、
血小板減少性紫斑病(血算2〜4週間毎)
肝機能障害
ピラジナミド(PZA)…肝機能障害、
高尿酸血症(25%程度)
エタンブトール(EMB)…視神経炎
参考文献 ハリソン内科学第3版、WM感染症科コンサルト、レジデントのための感染症診療マニュアル
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