小児科の宮原篤先生から以下のようなコメントをいただきました。ありがとうございます。コメント欄にも載せていますが、このご指摘にこの場をお借りして回答させてください。
小児科医をしております。 内容はとても納得できる事もあります。 ただ、生ポリオワクチンによる麻痺の確率は間違っていると思います。 百万人に2ー4人。日本が生ポリオワクチンを続けている限り、毎年ワクチンによる麻痺者が出る計算です。ご確認お願いします。
さて、結論から申しますと、「正しい」確率の推計は難しいので、「予防接種は、、、」ではその一説(教科書的な記載)を紹介いたしました。この問題はタミフルやインフルエンザワクチンの副作用でもよく議論されるところなので、すこしここで詳しく検討します。
たしかに、100万人に2−4人という文献も存在します。2004年のWHOのペーパーにはそう書いてあります(が、引用元不明なのでどういう数え方をしたのかは不明です)。厚労省の報告でも毎年何例かのワクチン服用後の麻痺例が報告されています。ただ、ここで注意したいのはこれが有害事象の報告で「副作用の報告数」ではない点です。例えば、平成20年から21年の1年間に麻痺例は6件ありましたがウイルス学的精査でワクチン株を確認したのは1例でした(それも便からなので、因果関係的には問題があります。OPVを飲んだ方の便からワクチン株が見つかるのはまあ、当然ですし神経症状との因果を説明もできないからです)。有害事象と副作用の違いは以前書きましたが厳密な区別が必要だと思います。
PlotokinのVaccine 5th edによると、13カ国における80年代のスタディーでは、平均VAPP発症率は0.14/million(range 0.0-0.33)でした。90年代のアメリカ(まだOPVやってたころ)では、VAPPの頻度は1/2.9 million doses でした。ただし、土着のポリオウイルスやエンテロウイルスのあり方にもよるので、地域差があるようです。むろん、免疫抑制者の場合(本当は禁忌ですが)はリスクが高いです。
VAPPの因果関係としては、
1.臨床的に灰白脊髄炎に合致する。
2.ワクチンウイルスが検出される。
3.クラスターの存在(ここは弱いと思いますが)
4. 検出されたワクチン株の、神経毒性を示す突然変異。
などが議論されます。もちろん、ここまで全て満たす必要はないですが、要するに診断基準や数え方によって数字は変動するということです。
特に日本では、VAPPの話題が注目されてきたので、このような有害事象の報告は増えると思います。ただ、有害事象報告数そのままをVAPPの頻度とするのは(インフルエンザや麻疹同様)ためらわれます。僕の立場は「どの数字が正しい」と主張することではなく、いちおう学問的にコンセンサスのとれている数字を紹介させていただきました。もちろん、学問的にコンセンサスがあることが「真理」を証明することではないので、この数字は将来ひっくり返るかもしれません。そのときは数字を「間違い」として訂正するべきだと思います。このような議論の展開は本書でご説明差しあげた通りです。
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