バンコマイシン単独使用と多剤併用療法の有効性の違いについての再検討
【本文献の内容】
対象となった患者は、好中球減少を有する血液悪性腫瘍を背景疾患とする、非高濃度ゲンタマイシン抵抗性の腸球菌菌血症を発症した症例である。抗菌薬は発熱後cefepimeで開始され、グラム陽性菌検出後にバンコマイシン(VCM)に変更し、菌種同定後にVCM継続かペニシリン系薬剤に変更かが決定された。本研究での分離株はE.faeciumが最多で、Propensity score matched cohort(PSM) において全体の49.0%であった。また、アミノグリコシド系薬剤の投与期間の中央値は8日間であった。
結果を以下に示す。PSMコホートにおいて、非GM投与群とGM投与群ではそれぞれ、30日間全死亡率は16.7%と14.6%、菌血症の72時間以上の持続率は7.4%と9.4%であり、ともに統計学有意差は認めなかった。また、腎機能への影響については、急性腎障害発生率は非GM投与群で31.2%、GM投与群で52.1%で統計的に有意差は認めなかった。しかし、血中クレアチニン濃度の上昇幅の中央値は、非GM投与群で14[7,27]、GM投与群で31[21,62]とGM投与群で明らかに高かった。ただし、アミノグリコシド系薬剤による腎障害は投与後4-10日で起こることは考慮すべきである。
結論として、GMを細胞障害系抗菌薬に追加投与することは、治療効果の改善は認めない上、腎機能障害のリスクを潜在的に上昇させると言える。
【議題についての再検討】
一般的にE.faeciumに対してはVCMが第一選択として用いられる。しかし本研究では、他薬剤での治療数を考慮すると、VCMを単独投与したと考えられるのは11症例、VCMにGMを追加したと考えられるのは5症例のみで、全156症例のうち10.4%に限る。そのため、この研究から議題に対する答えを得ることは難しいと考える。ただし、GM投与により腎障害発生率が高いという点においては考慮してもよいのではないかと考える。
以上より、本論文からは正確な結論は得られなかった。やはり、VCM単独投与とGM併用投与の治療の有効性の違いを明確にするためには、前向き研究を行う必要があると考える。
【参考文献】Jent P, Thalmann L, Pabst T, Droz S, Sendi P. Adjunctive gentamicin did not improve outcome of enterococcal bacteraemia in neutropenic patients: a propensity scored matched study: Infectious Disease. volume 2019;51;409-416
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