『多剤耐性緑膿菌感染の危険因子は何か?』
<序論>私の担当患者は、XXX。術後、緑膿菌肺炎を繰り返し、カルバペネム系、ニューキノロン系の薬剤に対する耐性株となっており、多剤耐性緑膿菌(MDRP)への移行の危険性もある。そこで、MDRP感染の危険因子を調べ、MDRPの発生を防ぐためにはどうすればよいか考えた。
<本論>薬剤耐性緑膿菌のうち、カルバペネム系、ニューキノロン系、アミノグリコシド系の3系統の抗菌薬全てに耐性を獲得した株は、MDRPと呼ばれ、感染症法では5類・定点把握疾患に指定されている。近年はこのMDRPの院内感染が問題となっている。2011年から2014年における米国の調査では、緑膿菌分離株の多剤耐性率は、人工呼吸器関連肺炎では20%、カテーテル関連血流感染症及び尿路感染症では18%、手術部位感染では4%となっており、緑膿菌感染が発生した際には一定数が多剤耐性化している現状がある(1)。
Defezらは、MDRP感染者80名、薬剤感受性緑膿菌感染者75名を対照に、MDRPによる院内感染のリスク因子を調べた(2)。多因子解析によると、緑膿菌全症例に対するMDRP院内感染のリスク因子は、MDRP発症7日前までのフルオロキノロン(キノロン系薬剤)の投与歴(OR=4.7)であり、手術症例では逆にMDRP発症は少なかった(OR=0.5)。また、Caoらは、MDPR感染者44名、薬剤感受性緑膿菌感染者68名の比較対照研究により、60歳以上(OR=10.01)、イミペネムやメロペネム(カルバペネム系薬剤)の投与歴(OR=44.8)、人工呼吸器管理(OR=8.2)、COPD/気管支拡張の既往(OR=3.0)、フルオロキノロンの投与歴(OR=2.8)がMDRP院内感染のリスクファクターとして挙げられた(3)。さらに、MDRP院内感染で死亡した患者の理由としては、人工呼吸管理(OR=12.8)、治療過程でMDRPの耐性パターンの変化が見られないこと(OR=26.6)が挙げられた。これらの結果から、広域抗菌薬の使用歴がMDRP感染を招く最も重要なリスクファクターであると考えられる。
<結論>以上のことから、抗菌薬を適切に使用することがMDRPを発症させないためには重要であると考えられる。広域抗菌薬の長期投与、抗菌薬の過少投与(量や期間)は薬剤耐性菌を増殖させる要因となるため、起因菌判明次第スペクトラムの狭い抗菌薬を使用するなど、抗菌薬の投与方法には注意が必要である。
<参考文献>
1. Lindsey M. Weiner et al. Antimicrobial-Resistant Pathogens Associated With Healthcare-Associated Infections: Summary of Data Reported to the National Healthcare Safety Network at the Centers for Disease Control and Prevention, 2011–2014. Infection control & hospital epidemiology november 2016, vol. 37, no. 11
2. C. Defez et al. Risk factors for multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa nosocomial infection. Journal of Hospital Infection (2004) 57, 209-216
3. B.Cao et al. Risk factors and clinical outcomes of nosocomial multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa infections. Journal of Hospital Infection (2004) 57, 112-118
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