術後髄膜炎において、何を指標に治療のモニタリングをすべきか?
今回担当した患者さんは、C2-Th1の頚椎症性脊髄症に対する後方―前方―後方矯正固定術後およそ1週間で発症した術後髄膜炎で加療されている。術後髄膜炎(院内発症髄膜炎)は市中感染による髄膜炎に比べて緊急性も低く、全身の炎症所見・症状も比較的穏やかである。そのため、今後何をパラメータとしてフォローし、治療効果判定をしていくのか疑問に思った。
日本神経感染症学会による細菌性髄膜炎ガイドライン2014によると、「院内感染の髄膜炎は、多くは侵襲的な手技や、複雑性の頭部外傷、まれには院内発症の菌血症に伴い発症する」とされ、起因菌や治療法についての記載はあるものの治療効果判定についての記載はなかった。
そこでIDSAのガイドラインを参照した。
「末梢白血球数、赤血球沈降速度、CRPなどの炎症マーカーのモニタリングが治療に対する反応のモニタリングに有用であるという証拠はない。医療関連心室炎/髄膜炎の患者では、CSF培養のモニタリングを行うべきである。」とされていたが、これらの裏付けとなる具体的なエビデンスを示す研究を行なった文献は見つからなかった。
以下、今回のテーマに該当する推奨文をまとめる。
・医療関連心室炎/髄膜炎の患者は、治療に対する反応性について、臨床的パラメーターに基づいてモニタリングされるべきである。
・医療関連心室炎/髄膜炎および外部ドレナージを留置している患者では、CSF培養をモニタリングし、CSF培養が陰性になるのを確認することが推奨される。
・決定的な臨床的改善が見られない患者では、CSFパラメータが改善され、培養の陰性を確認するために追加でCSF分析を行うことが推奨される。
外部ドレナージ関連細菌性髄膜炎(ED-BM)の早期診断にはCSFの日常的な分析が推奨されないことを示す前向き研究は存在する。Schadeらによって2007年に行われたコホート研究では、外部ドレナージを行なった230人の患者において、CSFサンプルを毎日集め、そのうち22人でED-BMが発症したが、CSF中の白血球数、タンパク濃度、グルコース濃度、CSF /血中グルコース濃度比において、患者群と対照群で有意な差は見られなかった。また、グラム染色・CSF培養も行なったが、グラム染色が非常に高い特異性を示す(99.9%)ものの感度が低かった(感染初日18%、2日目60%)。
よってCSFを毎日分析しても術後髄膜炎に対する感度が低いためスクリーニングとして有用ではなく、無症状の患者に毎日腰椎穿刺をすることは侵襲性も高いことから推奨されない。
治療予後判定について何がパラメータとして適切か検証した論文が見つからなかった原因としては、能力・時間不足のほか、術後髄膜炎の発症頻度の低さも挙げられる。McClellandらによって1991-2005年の間に2111例の脳神経外科手術を受けた患者の診療記録のレビューが行われたが、術後中枢神経系感染症の発生率は0.8%、細菌性髄膜炎の発生率は0.8%であった。発症例数の少なさから研究が進んでいないのではないかと考えた。
以上より、まず末梢白血球数、赤血球沈降速度、CRPなどの炎症マーカーのモニタリングは術後髄膜炎の治療予後判定に有用でなく、CSF培養についてはスクリーニングとして毎日行うことは推奨されないが、CSF培養が陰性化するまで定期的にモニタリングをすることが推奨されている。
残された課題としては、日本神経感染症学会による細菌性髄膜炎ガイドライン2014より、市中発症の細菌性髄膜炎では、治療期間に関しては一般には解熱し、症状が改善した後7〜10日間の抗菌薬の継続投与が望ましい、とされており、症状の改善がひとつの目安になっているが、術後髄膜炎では症状による目安が論じられた文献が見つからなかったので、今後学んでいきたい。
参考文献
・細菌性髄膜炎ガイドライン2014 日本神経感染症学会
・2017 Infectious Diseases Society of America’s Clinical Practice Guidelines for Healthcare-Associated Ventriculitisand Meningitis;Allan R. Tunkel et al
・Lack of value of routine analysis of cerebrospinal fluid for prediction and diagnosis of external drainage-related bacterial meningitis; Schade RP1, Schinkel J, et al; J Neurosurg. 2006 Jan;104(1):101-8.
・Postoperative central nervous system infection: incidence and associated factors in 2111 neurosurgical procedures. McClelland S 3rd1, Hall WA. Clin Infect Dis. 2007 Jul 1;45(1):55-9. Epub 2007 May 21.
寸評 難しいテーマによく取り組みました。日本神経感染症学会のガイドラインは、あまりできが良くありません。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。