注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、火曜日のお昼まで、5時間かけてレポート作成します。水曜日などに岩田がこれに講評を加えています。2019年2月11日よりこのルールに改めました。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、間違いもありますし、個別の患者には使えません。レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
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腎移植後のニューモシスチス肺炎予防は必要か
【考察】
ニューモシスチス肺炎はPneumocysitis jiroveciiによって起こる日和見感染症である。腎移植などの臓器移植後の患者は移植後の拒絶反応抑制のため免疫抑制剤を服用しており、免疫抑制状態にある。このような患者群へのニューモシスチス肺炎感染は死亡の原因ともなり得る1ことから、現在はニューモシスチス肺炎に対するスルファメトキサゾール トリメトプリム(以下 、SMX/TMPという)の予防的投与を臓器移植6ヶ月から1年間行うのが標準的となっている。SMX/TMPの予防的投与を受けている患者では、固形臓器移植術後のニューモシスチス肺炎の罹患は確認されなくなった。2しかし、1年以上、長期にわたるSMX/TMPの継続的な予防的投与が有益かどうかについては未だ議論がなされており、最適な投与期間のコンセンサスは得られていない。
本症例においても、腎移植後よりプレドニゾロンとタクロリムス内服が続いており、免疫抑制状態にあると考えられる。しかし、術後6年後よりSMX/TMPがニューモシスチス肺炎予防のため以降継続的に投与されている。そこで、腎移植術後6年よりSMX/TMPの長期的な予防的投与によるニューモシスチス肺炎予防は必要かどうかについて検討した。
G. H. Strujik et al.3 は腎移植を受けたのちにどの患者群に対して長期の予防的抗菌薬投与が有利であるか検討しているが、ニューモシスチス肺炎を発症した腎移植を受けた患者群と受けていない患者群のリンパ球数を発症から2年間遡ってみると、腎移植を受けた患者群では統計的有意なリンパ球減少が確認された。これより、長期にわたるリンパ球減少がみられる患者群でのSMX/TMPの長期投与が有用かもしれないことが示唆された。
X. Iriart et al.4は1年間のSMX/TMP予防投与後のニューモシスチス肺炎を来すリスク因子について検討しているが、最もリスクが高いとされる術後1年後の予防的投与中にニューモシスチス肺炎のコントロールがされていた場合、3年目以降では臓器移植を受けた患者の内ニューモシスチス肺炎を発症する患者の割合が少ないことからそれ以降のSMX/TMP投与は適当ではないとしている。この研究ではニューモシスチス肺炎発症のリスク因子として患者のリンパ球減少、年齢、CMV菌血症を挙げており、これらのリスク因子を評価した上で予防的投与を行うかどうか判断するべきだとしている。
以上のことから腎移植後のニューモシスチス肺炎予防へのSMX/TMPの予防的投与を術後1年間行うことは有効だと思われるが、術後6年から長期的な投与によるニューモシスチス肺炎の予防は必ずしも必要ではないかと考える。また、長期投与による薬剤耐性が懸念されることから、リスク因子(リンパ球減少、年齢、CMV菌血症)を評価した上でSMX/TMP投与によるニューモシスチス肺炎の予防が必要かどうかを検討すべきだと考える。
参考文献
1) Hughes WT, Feldman S, Sanyal SK. Treatment of Pneumocystis carinii pneumonitis with trimethoprim-sulfamethoxazole. Can Med Assoc J. 1975;112(13 Spec No):47-50.
2) Snydman DR, Fishman JA. Prevention of Infection Caused by Pneumocystis carinii in Transplant Recipients. Clin Infect Dis. 2001;33(8):1397-1405. doi:10.1086/323129
3) Struijk GH, Gijsen AF, Yong SL, et al. Risk of Pneumocystis jiroveci pneumonia in patients long after renal transplantation. Nephrol Dial Transplant. 2011;26(10):3391-3398. doi:10.1093/ndt/gfr048
4) Iriart X, Belval TC, Fillaux J, et al. Risk Factors of Pneumocystis Pneumonia in Solid Organ Recipients in the Era of the Common Use of Posttransplantation Prophylaxis. American Journal of Transplantation. 2015;15(1):190-199. doi:10.1111/ajt.12947
これも良い命題でしたし、よく議論したと思います。SOTと普通の腎移植、HSCTとSOT、、、、分類問題はややこしいですね。
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