注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腎移植後の無症候性細菌尿に対する治療はどれ程の効果があるか?
【はじめに】
腎移植後の尿路感染症は移植した腎臓の拒絶・機能障害や術後の死亡に関わるため、術後の尿路感染症を予防することが重要とされている。1),2),3) このため腎移植後には尿路感染症を予防するために無症候性細菌尿に対する治療が行われることがある。しかし、一般的に妊婦や腎移植患者、泌尿器科的な処置の前を除いて、無症候性細菌尿に対する抗菌薬治療の有効性は証明されておらず、腎移植後の無症候性細菌尿に対する治療はどれ程の効果があるか疑問に思ったため、レポートのテーマとすることにした。
【腎移植後の無症候性細菌尿の治療について】
腎移植患者における無症候性細菌尿を治療するべきかどうか、また治療するのであれば、移植後どの時期に治療するかということについて明確なコンセンサスはない。
R.Parasuramanらは、無症候性細菌尿が症候性の尿路感染症に増悪し、移植腎の機能障害をもたらす可能性があるため、 移植後1〜3ヶ月の間は無症候性細菌尿をスクリーニングし、5~7日間の抗菌薬治療を行うことが良いとしているが、腎移植患者における無症候性細菌尿を治療するべきであるというデータはない。2)
一方でMoradi Mらの研究では、88人の無症候性細菌尿を伴う腎移植患者を対象とした小規模の前向きランダム化比較試験で、無症候性細菌尿の治療は症状のある尿路感染症を予防しないことを示した(治療群9/43 vs. 非治療群14/45、P >0.05)。3) またEl Amari EBらの研究では、腎移植後1ヵ月以降に無症候性細菌尿と診断された334例において、無症候性細菌尿が症候性の尿路感染症に増悪することは治療群と非治療群で差がないことを示した(治療群0/101 vs. 非治療群4/233、 P = 0.32)。4) またこの研究では、治療した症例の35%において抗菌薬に対する耐性菌が生じており、腎移植後の無症候性細菌尿の治療は過剰であり、耐性菌の出現につながるとしている。
【考察】
Moradi M、El Amari EBらの研究では、腎移植後の無症候性細菌尿に対する治療は症候性の尿路感染症を予防する効果はないとしている。Moradi Mらの研究は小規模であり、またEl Amari EBらの研究は後ろ向き研究であるため、これらの研究だけで腎移植後の無症候性細菌尿に対する治療効果を完全に否定することはできない。ただ仮に無症候性細菌尿に対する治療が尿路感染症を予防する効果があったとしても、治療による耐性菌の出現や移植腎を障害する抗菌薬もあるため、これらのデメリットに対して尿路感染症を予防するメリットが上回らなければ、腎移植後の無症候性細菌尿を治療するべきではないと考えられる。
*参考文献
1) Pellé G, Vimont S, Levy PP, et al. Acute pyelonephritis represents a risk factor impairing long-term kidney graft function. Am J Transplant 2007; 7:899.
2) Lee JR, Bang H, Dadhania D, et al. Independent risk factors for urinary tract infection and for subsequent bacteremia or acute cellular rejection: a single-center report of 1166 kidney allograft recipients. Transplantation 2013; 96:732.
3) Chuang P, Parikh CR, Langone A. Urinary tract infections after renal transplantation: a retrospective review at two US transplant centers. Clin Transplant 2005; 19:230.
4) Parasuraman R, Julian K, AST Infectious Diseases Community of Practice. Urinary tract infections in solid organ transplantation. Am J Transplant 2013; 13 Suppl 4:327.
5) Moradi M, Abbasi M, Moradi A, Boskabadi A, Jalali A. Effect of antibiotic therapy on asymptomatic bacteriuria in kidney transplant recipients. Urol J 2005; 2: 32–35.
6) El Amari EB, Hadaya K, Buhler L, et al. Outcome of treated and untreated asymptomatic bacteriuria in renal transplant recipients. Nephrol Dial Transplant 2011; 26: 4109–4114.
寸評:難しいテーマでしたが、バランスの良い議論ができたと思います。
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