注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「血小板減少症の患者において血小板減少の速度が鑑別に有用か。また、有用ならば具体的にその数値は?」
血小板減少症とは一般的に血小板数が15×104/dL以下になった状態と定義される。血小板減少症は集中治療室(ICU)の患者のうち8~68%に認められ、ICU入室中の患者の13~44%が新規の血小板減少症を発症した1)というデータ(2)もあり、ICUの患者では頻繁に遭遇する病態であるといえる。また、血小板低値が患者の死亡率を悪化させるというデータも存在する。今回担当した患者さんがICU入室中に著名な血小板減少を認めたため、ICUの患者の1日あたりの血小板減少の割合が原因疾患の鑑別に有用であるかを考察した。
ICU患者の血小板減少の機序として、血小板の消費亢進、産生低下、破壊、希釈、脾臓への蓄積が挙げられる(3)。また、ICU患者の血小板減少症の原因疾患を調べた前向き観察研究によると、47.8%が敗血症、肝疾患もしくは脾腫によるものが18.4%、薬剤性が15.4%、DICが14%、感染症が11%、血液疾患が8.8%、その他アルコールや輸液過多などが原因として挙げられており、2つ以上の原因をもつ患者は25.7%であった(2)。今回は感染症(ICU入室後肺炎)、敗血症、DICについて1日当たりの血小板減少率が鑑別に有用であるかを考察する。また、疾患ごとに血小板減少率を観察、比較した論文を見つけることが出来ず、複数の資料を用いて考察した。
ICU入室後の肺炎(ICUAP)について血小板の減少数を記録した後ろ向き研究によると、ICUAP患者のうち、DIC基準を満たした群の血小板減少率は35%、非DIC群は15.3%であり、血小板の減少率はDIC群の方が大きかった(5)。また、敗血症について、ICU入室中に敗血症を発症し、死亡した群での血小板減少率は最初の24hで約15%であり、死亡しなかった群では血小板減少率は約10%であった(4)。また、DICについて、日本血栓止血学会の急性期DIC診断基準において24h以内の30%以上の血小板の経時的減少が診断基準項目に加えられており、その際臓器不全発症の危険が有意に高まり、死亡率も上昇するというデータが存在する(5)。上記三つを参考に判断すると、肺炎と敗血症よりもDICの方が発症初期の血小板の減少率が大きくなっており、血小板の急激な減少を認めた場合にDICをより疑うべきと考えることも可能だと考える。しかし、肺炎を含めた細菌感染、敗血症、DICは一連の病態を表している側面もあり、DICの原因疾患は感染以外にもあるので一概には言えないが、これは病態の重症度ごとの血小板数を比較していると考えることもできる。また、前述の通りICU患者の血小板減少の原因は複数であることが約25%であり、また、血小板減少速度が正確に測定できるとは言い切れない。より、今回調べた限りだと、血小板の減少率は原因の鑑別に有用であるとはいい難く、疾患の重症度を反映していると考えられる。また、今回は考察することが出来なかったが、ICU患者に対して原因疾患ごとに血小板減少率を比較した前向き観察研究などが存在すればより客観的な評価が出来ると考える。
参考文献
- Phil Hui et al. “The frequency and clinical significance of thrombocytopenia complicating critical illness:
systematic review” CHEST 2011; 139(2):271-278
(3) Steven Vanderschueren et al. “Thrombocytopenia and prognosis in intensive care”
Crit Care Med 2000 Vol. 28, NO. 6
(2) Andreas Greinacher and Sixten Selleng “How evaluate and treat thrombocytopenia in the intensive care unit patient” BLLOD 2016 29 DECEMBER VOLUME 128.NUMBER 26
(4) Dominique M et al. “Thrombocytopenia and outcome in critically ill patients with bloodstream infection” j.htlung.2009.07.005
(5)I.Kivilcim Oguzulen et al. ”Is the fall in platelet count associated with intensive care unit acquired pneumonia?” SWISS MED WKLY 2004;134:430-434
(6) 「日本血栓止血学会 急性期DIC診断基準 2017年度版」 DIC診断基準作成委員会
寸評;これもめっちゃ面白いテーマ。ぜひ研究してみてはいかがでしょう。
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