注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「胃がんに対して予防抗菌薬の種類によってSSIの発生率はどう変化するか」
胃がんの手術において一般的な予防抗菌薬には、第一および第二世代セファロスポリンが使用されており、他にはシプロフロキサンやアモキシシリン/クラブランサンについても同様の結果とされている。しかし、実際にはこれらの薬剤を含めて、複数の薬剤での比較研究はほとんどないといわれている1。例えば、アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)とセファゾリン(CEZ)の比較研究では、SSIの発生数がABPC/SBT群で21人(8.6%)、CEZ群で23人(9.5%)となった2。また、シプロフロキサン(CPFX)の経口と静注、セフロキシム(CXM)の静注を比較した研究では、経口CPFX群で4人(8%)、静注CPFX群で6人(12%)、静注CXM群で7人(14%)が創部に感染を起こした3。この二つの研究はどちらも有意差は示されなかったため、予防抗菌薬の種類による効果の差はほとんどないともいえる。
日本では、SSIの発生率を調査した単剤での試験が行われており、そのうち2015年のランダム化試験では、胃がんの患者に対して、2つのグループに分け、術中抗菌薬単独群(n=176)では、CEZ 1gを術直前+3時間ごとに追加投与した。一方で、術中術後抗菌薬群(n=179)では、上記に加えてCEZを術後0日目の夜間と12時間ごとに2gを投与した。その結果、SSI発生率は術中投与群が8人(5%,95%CI 2−9%)、術中術後投与群が16人(9%,5−14%)となった。術中単独群の相対リスクは0.51(0.22−1.16)であった4。
2017年に行われた別の試験では、腹腔鏡手術を受ける患者を対象から除外した上で、ABPC/SBTを術前に投与し、術後6または18時間で再度投与するグループ(24時間群、n=228)と、術後6時間で再度投与し、その後は1日2回の投与を72時間後まで続けるグループ(72時間群、n=236)に分けた。この2群間のSSIの発生率を比較すると、24時間群では20人(8.8%)、72時間群では26人(11%)となった5。
この二つの研究から、CEZを投与した場合とABPC/SBTを投与した場合のSSIの発生数をそれぞれ求め、フィッシャーの正確検定を行うと、両側P値=0.13となった。またオッズ比は0.66(0.39-1.10)となったため、CEZとABPC/SBTではSSIの予防の効果の差は示されなかった。以上より、胃がんの手術におけるSSIの発生率は、予防抗菌薬の種類によって有意な変化がないことが分かった。
【参照文献】
1. Bratzler DW et.al. Clinical practice guidelines for antimicrobial prophylaxis in surgery. Am J Health Syst Pharm. 2013 Feb 1;70(3):195-283
2. Mohri Y et.al. Randomized clinical trial of single- versus multiple-dose antimicrobial prophylaxis in gastric cancer surgery. Br J Surg. 2007 Jun;94(6):683-8
3. McArdle CS et.al. Oral ciprofloxacin as prophylaxis in gastroduodenal surgery. J Hosp Infect. 1995 Jul;30(3):211-6
4. El-Mahallawy HA et.al. Impact of intra-operative intraperitoneal chemotherapy on organ/space surgical site infection in patients with gastric cancer. J Hosp Infect. 2015 Nov;91(3):237-43
5. Takagane A et.al. Randomized clinical trial of 24 versus 72 h antimicrobial prophylaxis in patients undergoing open total gastrectomy for gastric cancer. Br J Surg. 2017 Jan;104(2):e158-e164
寸評:自分でフィッシャー検定したのが、偉かったです。論文と著者をうのみにするのではなく、検証せねば。
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