注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「ALS患者における肺炎の予防法にはどのようなものがあるか」
ALSの患者は寝たきりになりやすく、誤嚥性肺炎のリスクが高い。まずはじめに、ALS患者における肺炎の予防について文献を検索してみたが、エビデンスの高い研究は見当たらなかった。そこで、ALSに限らずADLに介助が必要な患者における肺炎の予防について検討してみることする。
米山らの研究では、ADLにおいて介助を必要とする養護施設の患者に対して、看護師による歯ブラシによる毎食後の歯磨き、ポリドンヨード洗浄、歯科医による専門的ケアを受けたグループ(184人)と受けなかったグループ(180人)について追跡調査が行われた[1]。結果、前者では11%、後者では19%の患者で肺炎が診断された(RR=1.67, 95%CI=1.01-2.75, P<0.05)。
Drakulovic MBらの研究では、人工呼吸器をつけた複数の病院のICU患者を、上半身を起こした半臥位のグループ(39人)と仰臥位のグループ(47人)に分けてランダム化比較試験が行われた[2]。結果、前者では5%、後者では23%に肺炎がみられた(RR=4.6, 95%CI=4.2-31.8, P<0.05)。
丸山らは、9つの病院と23の養護施設の患者を、肺炎球菌の糖鎖ワクチンを投与したグループ(502人)とプラセボ群(504人)に分けてランダム化二重盲検試験を行った[3]。前者の2.8%、後者の7.3%に肺炎球菌による肺炎がみられ(RR=0.368, 95%CI=0.199-0.680, P<0.05)、前者の12.5%、後者の20.6%に肺炎がみられた(RR=0.587, 95%CI=0.429-0.802, P<0.05)。肺炎球菌による肺炎だけでなく、全ての肺炎の罹患率も下げる結果となった。
以上より、ADLの低下している患者に対して、専門家による口腔ケア、上半身を起こした半臥位、肺炎球菌ワクチンの投与を行った患者群は対照群に比べ肺炎の罹患リスクが有意に少なく、肺炎罹患率の低下に効果があると言える。ただ、誤嚥性肺炎に限定した検討はなされていなかった。一方で、ALS患者でしばしば見られるPEGによっては、対象群と比較して誤嚥性肺炎のリスクに有意差が見られないという研究があり[4][5]、肺炎の予防という点においては効果が薄いと言える。
ALS患者の合併症予防についての大規模研究が見当たらず、ALSに特異的に効果のある肺炎予防法があるのかという当初の疑問については分からない。ただ、上記の予防法はALS患者でも応用できるため、ALS患者における肺炎の罹患を減少させられると考える。
[1] Yoneyama T, et al. Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes, J Amer Geriatr Soc , 2002, vol. 50 (pg. 430-3)
[2] Drakulovic MB,et al. Ferrer M. Supine body position as a risk factor for nosocomial pneumonia in mechanically ventilated patients: a randomised trial, Lancet , 1999, vol. 354 (pg. 1851-8)
[3] Maruyama T, et al. Efficacy of 23-valent pneumococcal vaccine in preventing pneumonia and improving survival in nursing home residents: double blind, randomized and placebo controlled trial, BMJ , 2010, vol. 340 pg. c1004
[4] Fox KA, et al. Aspiration pneumonia following surgically placed feeding tubes, Am J Surg. 1995 Dec;170(6):564-6
[5] Spain DA, et al. Transpyloric passage of feeding tubes in patients with head injuries does not decrease complications, J Trauma. 1995 Dec;39(6):1100-2.
寸評:難しいテーマですがよくチャレンジしたと思います。よって、これが次の研究テーマです。
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