注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
敗血症性ショックで徐脈になるのはどんな場合があるか?
重症敗血症や敗血症ショックの患者は相対的副腎不全となっていることがある。相対的副腎不全とは、コルチゾールの基礎値は正常かわずかに上昇しているが、正常なコルチゾール分泌能を欠くため更なるストレスや外因性ACTHに対して正常に反応できない、コルチゾール分泌が侵襲の大きさに見合わない状態を指している。この場合敗血症性ショックでも徐脈になる。視床下部-下垂体軸の可逆的な機能不全、グルココルチコイド受容体の減少や組織反応性の低下といった様々な機序を包括する概念として重症関連コルチコステロイド障害(Critical illness-related corticosteroid insufficiency(CIRCI))が提唱されている。
敗血症で低体温症となる全身の臓器に進行性の機能不全が見られる。このうち心血管系では、頻脈となったのち脈拍数・心拍出量が進行性に低下する。この場合敗血症性ショックでも徐脈となる。敗血症に伴う低体温症は予後不良の徴候である。
感染に対する生体反応が強まるにつれ、血中サイトカインなどの濃度が上昇しトロンビンの制御困難な産生がおこる。微小血管にフィブリンが沈着して血栓を形成し、肺・腎・肝・脳をはじめとする多くの臓器に対する血液供給が阻害され、最終的に臓器不全に至る。このとき循環器系の中枢が位置する延髄が障害されると徐脈となりうる。
多くの臓器で血液からの酸素の取り込みが正常に行えなくなると嫌気性代謝が行われるようになる。肝・腎での乳酸とピルビン酸のクリアランスが障害されるとともに解糖系が亢進することで血中乳酸値が上昇する。代謝性アシドーシスが進行すると代償として細胞内にHを取り込む。同時にKが放出されて高K血症となる。K濃度が7.0mEq/L以上では徐脈や不整脈、心停止の可能性が高まる。
敗血症性ショックの頻脈では心拍数90-100/分以上となっていることが多いため80/分未満を比較的徐脈とすると、比較的徐脈であった敗血症性ショックの患者では28日死亡率が21%、徐脈のない患者では34%であった。このことから、敗血症性ショックでの比較的徐脈と死亡率には関係があることが分かった。
〈参考文献〉
1)Recommendations for the diagnosis and management of corticosteroid insufficiency in critically ill adult patients: consensus statements from an international task force by the American College of Critical Care Medicine. Crit Care Med. 2008 Jun;36(6):1937-49. doi: 10.1097/CCM.0b013e31817603ba.
2) Relative Bradycardia in Patients with Septic Shock Requiring Vasopressor Therapy
Sarah J. Beesley, MD,1,2 Emily L. Wilson, MStat Crit Care Med. 2017 Feb;45(2):225-233. doi: 10.1097/CCM.0000000000002065
寸評:これもなかなかに素晴らしいタイトルです。病態生理で切っているのがいかにも4年生らしいですが、それも良いことだと思います。最後の文章は、因果が逆になっているのでしょう。脈が速くないから予後が良いのではなく、予後が良い患者だから脈が速くないのでしょう。よって、βブロッカーで予後が良くなるか?という疑問の演繹的な答えになるのです。帰納的な文献検索についてはpubmedを使って演習しましたね。
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