注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSL 実習報告書
「右心系感染性心内膜炎と左心系感染性心内膜炎の危険因子はどう違うか」
感染性心内膜炎 (infective endocarditis; IE) は、心内膜、主として弁に病原体 (主に細菌、稀に真菌) が感染し、炎症細胞と感染病原体の残骸やフィブリンの塊 (疣贅) が形成される疾患である。左心系の方が弁の圧較差が大きいため、IEの多くは左心系に起き、右心系のIEは全体の5-10%に過ぎない[1]。IEの病理は左右で同様であるため、危険因子として抜歯、口腔粘膜損傷などによる菌血症は共通している。しかし菌血症以外の原因の中に、左右どちらの心系によりIEを起こし易いかが異なるものが存在する。
右心系IEの危険因子として代表的なものに、静注薬物乱用1や中心静脈カテーテル留置[2]、特定の先天性心疾患[3]が挙げられる。
特に三尖弁にIEを起こし易い因子として、欧米では静注薬物乱用が多く報告されている1。頻回に薬物を静脈注射することで、薬物そのものの三尖弁への傷害や、皮膚に存在する細菌の静脈内への侵入など、様々な病態形成仮説が提唱されており、定説は現在のところない[4]。
中心静脈カテーテル留置を行うと、カテーテル感染による菌血症の危険に加え、液体が中心静脈より注入されることで三尖弁への負荷や傷害が大きくなり、右心系、とりわけ三尖弁IEが発生し易くなるとされる2。中心静脈カテーテル処置を行うと、右心系IEの発生率は左心系IEと比較して約5倍になるという研究結果もある3。
先天性心形成異常により、右心系IEの発生頻度が左心系IEのそれに比べて約3倍上昇することを示唆する報告もある。ここでいう心形成異常は、右心室に血流ジェットを生じる心室中隔欠損症が主で、他に動脈管開存症、心房中隔欠損症、ファロー四徴症も少ないながら含まれる3。
右心系、左心系の弁の異常は、それぞれ同側の心系に血流ジェットを生じ、それぞれの側の心系にIEを起こし易い。しかしそれらを除けば、右心系IEの危険因子の様に、左心系に優位にIEを起こす因子は見当たらなかった。
以上から、IEの危険因子は左右心系で基本的に共通している。だが、右心系IEには特徴的な危険因子 (特に静注薬物乱用やカテーテル感染) が存在し、それらを意識しておくことは、(右心系) IEを見落とさないために有用だろう。
[1] Chan P, Oqilby JD, Seqla B, Tricuspid valve endocarditis. AM Heart J 1989; 117: 1140-1146.
[2] Karolina Akinosoglou, Efstratios Apostolakis , Markos Marangos , Geoffrey Pasvol,Native valve right sided infective endocarditis,European Journal of Internal Medicine Volume 24, Issue 6, September 2013, Pages 510-519
[3] Mi-Rae Lee, Sung-A Chang, Soo-Hee Choi, Ga-Yeon Lee, Eun-Kyoung Kim, Kyong-Ran Peck, and Seung Woo Park,Clinical Features of Right-Sided Infective Endocarditis Occurring in Non-Drug Users,J Korean Med Sci. 2014 Jun; 29(6): 776–781.
[4] Daniel J Sexton, MD,Vivian H Chu, MD, MHS ,Infective endocarditis in injection drug users
寸評:左右を比較するという発想はよいです。右の議論ばかりしたので、左と比較する、という点に注意すればさらによかったでしょう。
コメント
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