注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科レポート
「マルファン症候群(MFS)において人工血管感染は長期予後にどれくらい影響するのか?」
成人MFS患者の60-80%に大動脈基部やその他の部分の拡張が見られる。そのため、現在ではMFS患者の50%に対し、大動脈の人工血管置換が若年期に行われるようになり、平均寿命は72歳と40年前より30年近く伸びている1)。人工血管置換が広く行われるようになったなかで、置換後の人工血管感染が長期予後に及ぼす影響について考察していく。
まず、人工血管置換後のMFS患者について考える。Finkbohner Rらの研究によると、1966-1992年の間にMFSの家族歴があり、若年(初回手術時の年齢の中央値32.4歳)期に人工血管置換を行ったMFS患者192人(生存143人、死亡49人)のうち、53%にあたる101人が再手術を受けたことがわかった。同部位を再手術したのは48人だった。同部位への手術の原因、再手術後の予後は言及されていなかった。49人の死亡者のうち46人の死因はわかっており、18人が周術期死亡(原因不明)、退院後の死因は動脈瘤破裂/解離7人、先天性心不全6人、動脈瘤再手術の周術期死亡6人であった。人工弁感染による感染性心内膜炎も1人含まれていた。また、再手術のリスク因子として、初回手術の時点で大動脈解離がある(p<0.001)、高血圧(p=0.041)、喫煙(p=0.029)があったが、感染は挙げられていなかった2)。この研究では、感染への言及はなかった。また、人工血管置換された患者の半数以上が再手術を受けていたことは示されていたが、再手術の有無が予後に影響するかどうかも言及されていなかった。
Fabian AらがMFS患者の再手術の予後を調べた研究によると、1998-2013年の間に大動脈基部手術後、再手術を受けたMFS患者40人(初回手術時の年齢は33±12歳で、再手術は9.3±6.7年後に受けた)のうち、院内死亡は13.5%(死因は敗血症性ショック2人、多臓器不全やコントロール不能3人)、10年生存率は67%(院内死亡を除く死因は人工血管感染による敗血症性ショック1人、大動脈出血1人、不明3人)となった。この研究においても、再手術の原因についての言及はないものの、強力な予後因子として初回手術の時点で急性大動脈解離があること(p=0.044)が挙げられた3)。人工血管感染に関する直接的な言及はなかったものの、再手術後の10年生存率が67%であり、その死因に人工血管感染が含まれることから、再手術と人工血管感染が長期予後に影響を及ぼす可能性があると考えた。
以上より、テーマに対する回答としては、MFS患者の人工血管感染に関する文献はなく、あくまで推測にすぎないが、再手術が長期予後に影響すること、人工血管感染は再手術後の死因の一つであることから、程度は不明であるものの、MFS患者の人工血管感染は長期予後に影響を及ぼすと考える。両文献にあげられている最大のリスク因子である初回手術の急性大動脈解離既往が置換後の人工血管感染に影響するかどうかがわかれば、長期予後へのより正確な影響を考察できるのではないかと思う。
参考文献
1)Adams JN et al. Aortic complications of Marfan's syndrome. Lancet 1998 Nov 28;352(9142):1722-3
2) Finkbohner R et al. Marfan Syndrome Long-term Survival and Complications After Aortic Aneurysm Repair. Circulation 1995 Feb 1;91:728-733
3)Fabian A et al. Results After Thoracic Aortic Reoperations in Marfan Syndrome. Ann Thorac Surg. 2014 Apr;97(4):1275-80
寸評;いつも申し上げていることですが、文献が見つからなかったからといって、自分のリサーチクエスチョンを曲げてはいけません。物知りになっても意味が無いので、クエスチョンに答えているかだけが大事です。そして、クエスチョンの答えたる文献がゼロならば、「それなら私が書いてやる」となり、ここに報告や研究の萌芽が生じるのです。研究のための研究は臨床医学ではあまりおもしろくありません。臨床の結果が研究なのです。
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