CD toxinが検出されていないCD腸炎疑いの患者に対するメトロニダゾール投与は有効か

注意！　これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。

２０１６年７月１５日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計５時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、５時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。

また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。

あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。

ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで

 

CD toxinが検出されていないCD腸炎疑いの患者に対するメトロニダゾール投与は有効か

 

　Clostridium difficile腸炎（CD腸炎）は入院中の患者に発生する感染症で最も多いものの一つであり、抗菌薬関連下痢症の主なものである。診断にはCD toxinの検出が用いられ、治療にメトロニダゾールもしくはバンコマイシンが使用されるが、CD腸炎が疑われCD toxinが検出されていない段階でのエンピリカルなメトロニダゾールの使用は有益か考察したい。

　まずCD toxinにはtoxinAとtoxinBがあり、通常両方とも迅速検査で検出できる。toxinA/Bの特異度は99%程と非常に高いが、感度は約75%である¹⁾。よってCD toxinが検出されていなくてもCD腸炎は除外できないため、下痢などの症状、経過、抗菌薬使用などのCD腸炎のリスクファクターも考慮する必要がある。

　CD toxin迅速検査で陰性の場合、便培養によりCD toxin産生菌の検出を行うが、２日程必要な検査のため患者の状態によっては結果を待つことは最善でない。よって、CD腸炎と確定診断できていなくても、CD腸炎として治療を開始する方が良い場合もある。しかしながら、CD腸炎が重症の場合はバンコマイシンの経口投与が推奨されているため²⁾、メトロニダゾールは症状が軽度もしくは中等度の場合に投与すべきである。

　次にメトロニダゾールの特徴について述べていきたい。まずメトロニダゾールはバンコマイシンに比べ安価である。両者の軽度、中等度のCD腸炎に対する効果は、22の研究を含むメタ解析で大差がないことが示されており、VRE(vancomycin-resistant enterococci)の腸管内コロニー形成のリスクも同等である²⁾。メトロニダゾールは胃腸症状や構音障害・歩行失調をきたすメトロニダゾール脳症等の副作用をもつ。しかしながらこれらの症状は可逆的であり投与中止により改善される。よって第一選択薬としてバンコマイシンよりもメトロニダゾールを使用することは妥当であり、副作用が生じたり効果が不十分な場合に、バンコマイシンに切り替えることを検討するが良いと考えられる。

　4ヶ月間、２つの病院でCD腸炎と思われる71人の患者にエンピリカルなメトロニダゾールによる治療を行った前向きの研究が存在する³⁾。うち70人(97%)にメトロニダゾールが使用され後に18人(25%)がCD腸炎と診断された。残りの患者は他の疾患、または最後まで下痢の原因が特定できなかった。結果は、後にCD腸炎と診断された患者はメトロニダゾール投与により症状が大きく軽減された。しかし残りの75%でCD腸炎に罹患しておらず治療によるメリットを得ることはできなかった。このことより、CD腸炎でない患者に対する無益で有害の可能性のある治療を避けるために、CD腸炎が強く疑われる患者（高齢者かつ広範囲スペルクトル抗菌薬の使用歴がある患者）にのみ使用するのが好ましい。

　以上のことより、CD toxinが検出されていないCD腸炎疑いの患者に対してメトロニダゾールを投与するのは、患者の経過、既往、リスクファクターを考慮しCD腸炎の可能性が高いと思われ、かつ重症度が軽度または中等度の際に最適と結論付けた。

【引用文献】

• UpToDate: Clostridium difficile infection in adults: Clinical manifestations and diagnosis
• UpToDate: Clostridium difficile in adults: Treatment
• Effectiveness and Appropriateness of Empiric Metronidazole for Clostridium difficile-Associated Diarrhea: American Journal of Gastroenterology, 354–358(2003)

寸評：テーマはむっちゃ面白かったのだけど、検査偽陰性と検査待ってる間のエンピリック治療がごちゃごちゃに議論されていてもったいなかったです。2つレポート書けたね。