注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「結核による副腎不全が起こった患者に対して結核の治療をした場合、副腎機能は改善するのか」
原発性副腎不全の主要な要因の一つに結核がある。副腎不全は一般に回復せず、生涯にわたってのホルモン補充療法を必要とする疾患であるが、その原因が結核であった場合、原因疾患である結核の治療は可能である。今回、結核による副腎不全において原因疾患である結核を治療した際副腎機能が改善するのか興味を持ち、このレポートを作成した。
Sharmaらは1995-1998年にAll India Institute of Medical Sciencesにて、結核治療によって副腎不全が改善するのか、改善するならば治療期間と相関するのかを判定するためにコホート研究を行った1)。
研究対象は、肺結核の患者(n=32)、栗粒結核などの播種性結核の患者(n=33)、多剤耐性結核患者(n =40)、計105人で、抗結核治療の開始前に105人の患者のうち53人(51.5%)は副腎不全の基準を満たしておらず、52人が副腎不全を呈していた。全ての患者は標準的な抗結核治療を受けており、それぞれの患者に対し迅速ACTH負荷試験(ACTH 250 µg静注)をフォローアップ中に6ヶ月の間隔で実施して、追跡調査を行った。
肺結核群では、ACTH負荷試験の正常反応者の割合は、試験開始時の50%(32人中16人)から治療完了時の68.8%(32人中22人)に増加した。 24ヶ月まで追跡された8人の患者では、8人中7人の87.5%が反応性であった(P <0.05)。播種性結核群では、試験開始時のACTH反応者は48.4%(33人中16人)から治療完了時に75%に増加した。 24ヶ月まで追跡調査した10人の患者ではすべてが反応を示し、100%であった(P <0.05)。多剤耐性結核患者群(n = 40)では、開始時に52%の患者がACTH反応者であり、治療完了時(18ヶ月)に20人が追跡され、85%(17人)が反応を示した。 24ヵ月後まで追跡された14人の患者は全てACTH反応性、すなわち100%を示した(P <0.05)。
この研究の結果、結核の種類にかかわらず、副腎機能は結核の治癒により改善していることが示された。また副腎機能の改善は、ほとんどの患者において疾患の治癒と相関し、特に治療の最初の6ヶ月で顕著であった。
また、Lawayらは、2009-2011年に、健常対照群と比較して、結核治療の前後における活動性肺結核患者の副腎の形態および副腎皮質の機能を評価するための前向き症例対照研究を行った。2)
ここでは、患者群、対照群がそれぞれ45人ずつ研究され、患者群の平均年齢は42.4±20.4歳で、対照群の平均年齢は41.1±17.7歳であり、種々の臨床的および生化学的パラメータは、両群で同等であった。健常対照群と比較して、患者群の平均血中コルチゾール値およびACTH負荷後コルチゾール値は有意に低かったが、副腎不全の基準は満たしていなかった。また、副腎の長さと厚さに関して、対照群と比較して患者群でX線、CT画像にて有意に拡大が見られた。
抗結核治療の前後で比較したところ、治療後の結核患者の血中コルチゾール値には有意な変化は認めなかったが、ACTH負荷後のピークのコルチゾール値は、治療前よりも抗結核治療後6ヵ月の方が有意に高かった(P=0.005)。副腎の大きさに関しては、治療後、すべての患者でX線、CT画像にて有意に縮小し(P=0.000)、正常化していた。
以上より、これらの研究はランダム化比較試験ではないものの、結核による副腎不全は、結核の治療により機能的に改善し、また結核治療により副腎肥大も改善するという結論は妥当であると思う。よって、副腎不全が完全に回復した際は加療の必要がなくなる可能性があること、また副腎不全に対するホルモン補充療法ではホルモン過剰による脂質、代謝異常などの弊害が起こるリスクがあることから、結核による副腎不全が起こった患者においては、結核治療後も定期的に副腎機能を評価する必要があると考える。
【参考文献】
1) S.K. Sharma et al; Reversal of subclinical adrenal insufficiency through antituberculosis treatment in TB patients: a longitudinal follow up. Indian J Med Res 122, August 2005, pp 127-131
2)Bashir A. Laway et al; Pattern of adrenal morphology and function in pulmonary tuberculosis: response to treatment with antitubercular therapy. Clinical Endocrinology (2013) 79,321-325
寸評:非常によいレポート。テーマ設定も臨床的です。シングルアームスタディーも「はっきりした問題」にはとても役に立つという好例です。文献のテーマとの意味付けをより意識したら100点満点だったでしょう。
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