注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
【感染症BSLレポート】
術前ステロイドは縫合不全のリスクを上げるか??
縫合不全(Anastomotic leakage:以下ALと略す)は重要な術後合併症の一つで、放射線療法、喫煙、輸血、肥満、炎症性腸疾患など様々な因子でALを起こすリスクが上がる。また、自己免疫性疾患や炎症性腸疾患などのステロイド使用者では創傷治癒遅延や軟部組織の脆弱化をおこす。ステロイドが繊維芽細胞の増殖を抑制し、コラーゲン生合成酵素の活性を低下させることでコラーゲンの架橋構造つまり創強度が減少することが機序と考えられる。そこで私はステロイドでALは増加するのか、またもし増加するのであればステロイド用量依存性なのか疑問に思った。特に今回は長期間少量ステロイドを服用することでALが増加するかに絞って文献的考察を行った。
Eriksenらが行ったsystematic reviewでは下部消化管吻合術を受けた全9564人の患者が対象となり、AL発生がステロイド内服群で有意に上昇することが示された。(1)ステロイドの服用期間、用量、対象疾患、消化管吻合部位に差はあったものの、全体としてAL発生率はステロイド内服群で6.77%(95%CI:5.48-9.06)、非ステロイド群で3.26%(95%CI:2.94-3.58)であった。またそのreviewの引用文献であるMatthewらのstudyでは、長期間(少なくとも10日以上)のステロイド使用で糖尿病の有無に関わらず、OR4.0(糖尿病あり)と4.6(糖尿病なし)で有意にALが増加した。ただ具体的な用量の記載は無かった。(2)ステロイドの使用がラットモデルで結腸吻合の治癒を損なう可能性については、高用量および低用量ともに投与期間に関わらず結腸吻合のコラーゲン活性を有意に低下させ、治癒に悪影響をもたらすことが報告された。(3)
結論としてステロイド使用者の下部消化管吻合術ではALリスクが上昇し、長期間の低用量群においてもALリスクが増加し吻合治癒を遅延させることが分かった。しかし術前にステロイドを減量すべきかについては、原疾患の病勢コントロールと術後合併症のリスクを考慮せねばならず、明確な用量のカットオフ値は定義できなかった。また炎症性腸疾患のみを対象とした研究では、ステロイドの影響以外にも原疾患による消化管粘膜の破損がある可能性もある。患者毎にステロイドを必要とする病態は様々で、基礎疾患によるバイアスの存在も無視できない。
〈引用文献〉
1)Treatment with corticosteroids and the risk of anastomotic leakage following lower gastrointestinal surgery: a literature survey:Eriksen TF1, Lassen CB, Gögenur I
Colorectal Dis.2014 May;16(5):O154-60.
2)Effect of prednisolone on local and systemic response in laparoscopic vs. open colon surgery: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial.:Vignali A1, Di Palo S, Orsenigo E, Ghirardelli L, Radaelli G, Staudacher C.
See comment in PubMed Commons belowDis Colon Rectum. 2009 Jun;52(6):1080-8
3)Effect of corticosteroid dose and duration of administration on colonic anastomosis.
Baca B1, Ozben V, Boler DE, Onur E, Hamzaoglu I, Karahasanoglu T, Erdamar S, Atukeren P, Dirican A.
Inflamm Bowel Dis. 2010 Dec;16(12):2162-7
寸評:非常に優れたレポートです。テーマの臨床的意義。文献の検索と読解、その解釈とlimitationの開示と申し分ありません。模範的です。
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