注意！ これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
２０１６年７月１５日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計５時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、５時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ニューモシスチス肺炎の予防に対しST合剤はアトバコンと比べ有用であるのか
ニューモシスチス肺炎の予防に対し文献1）2）を調べてみると、ST合剤がニューモシスチス肺炎の一次および二次予防の第一選択であるが、発熱、発疹、血球減少、肝炎、高カリウム血症、胃腸障害といった副作用があり使えなくなることがある。そして、代替薬としてアトバコンなどが挙げられている。そこで、HIV患者と非HIV患者においてニューモシスチス肺炎の予防に対してST合剤とアトバコンを比べたらどうなのか調べることにした。
まず非HIVの患者に関して、C Colbyらのstudy3）は、1997年1月から同年12月までに血液腫瘍と固形腫瘍に対し自己末梢血幹細胞移植を受けた患者のうち39人を対象として、ST合剤とアトバコンの比較を行った。20人の患者がアトバコン（1500mg）を連日内服し、19人がST合剤（160/800mg）を週3日内服した。両群ともに薬は移植の5日前から1日前まで投与し、移植当日は中止し、移植後100日まで投与した。アトバコンを投与された患者20人のうち、2人が移植を受けず2人が正確に内服できなかったため内服を中止し、残りの16人が内服を終えた。一方、ST合剤を投与された患者19人のうち、1人が移植を受けず8人が副作用を示したため内服を中止し、残りの10人が内服を終えた。アトバコン群のうちアトバコンに関係した副作用が見られた患者は1人もいなかったのに対し、ST合剤群ではASTの上昇（1人）、吐き気や嘔吐（3人）、血小板減少症（2人）、好中球減少（2人）といった副作用が見られた。アトバコン群、ST合剤群ともにニューモシスチス肺炎は発症しなかった。
次にHIV患者に関してだが、ニューモシスチス肺炎の予防として、何らかの理由でST合剤を継続できなかった場合のダプソン・吸入ペンタミジンといった他の予防方法とアトバコンを比較した研究はいくつか行われていたが、ST合剤とアトバコンを直接比較した研究は検索した限り見つけることができなかった。
上記のように、ST合剤がニューモシスチス肺炎予防の第一選択薬とされているが、非HIV患者においては今回の研究からだけではST合剤とアトバコンの間に有効性の観点からは有意な差を見出すことができなかった。副作用の観点からはむしろST合剤よりもアトバコンの方が優れていると考えられた。HIV患者においては、将来ST合剤とアトバコンを比較した研究が期待される。また、有効性と副作用以外の比較要素について、ST合剤は1錠あたり74.6円、アトバコンは750mg/包あたり1727.6円と費用についてかなり差があることや、アトバコンは食後に内服する必要があることなどもST合剤が第一選択薬であることに大きく関与していると考えられる。
<参考文献>
- ハリソン内科学 第4版（メディカル・サイエンス・インターナショナル）
- The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy,2010
- Colby C. A prospective randomized trial comparing the toxicity and safety of atovaquone with trimethoprim/sulfamethoxazole as Pneumocystis carinii pneumonia prophylaxis following autologous peripheral blood stem cell transplantation. Bone Marrow Transplant. 1999 Oct;24(8):897-902.
寸評：なかなかおもしろいレポートです。確かに調べてみるとSTとアトバコンをガチンコで比較したスタディーって少ないですね。考察もしっかりしていて、既存の「常識」に刃を突きつけるような理路は見事です。お疲れ様でした。
コメント