注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
黄色ブドウ球菌による菌血症の長期予後予測因子にはどのようなものがあるか
黄色ブドウ球菌による菌血症(Staphylococcus aureus bacteremia: SAB)は感染30日後の死亡率が20-40%と非常に高い疾患である(1)が、私が今回担当したSAB患者では改善傾向の経過をたどっている。そこで、患者の今後の予後を検討する判断材料となる、長期予後予測因子にはどのようなものがあるのか調べてみた。
F.Hansesらがドイツで80人のSAB患者に対して行った後向き研究の結果、1年生存率を有意に改善させる因子としてSABと診断された日(day0)に黄色ブドウ球菌に活性のある抗菌薬を使用したこと(65.2 vs. 35.3%, HR 2.1, 95% CI 1.11–4.05, p= 0.022)、疑わしい感染源が特定されること (26.1 vs. 62.9%,95%CI 1.24–7.09, HR 2.97, P = 0.015)、BMI>24kg/m2 (33.3 vs. 59.3%, hazard ratio 2.0, 95% CI 1.03–3.89 , P = 0.04)が挙げられた。感染源については、感染源の特定できる患者のほとんどが、抜去によって治癒が見込みやすいカテーテル関連SABであることが理由として考えられている。また、1年生存率において年齢、性別、抗菌薬への抵抗性(MRSA vs MSSA)には有意差は認められなかった。(2)
しかし、Yaw LKらがオーストラリアで582人のSAB患者(MRSA185人vs MSSA397人)を対象に行った観察的コホート研究によると、14年死亡率はMRSAで有意に高く(75% vs 62%, p=0.01)、生存期間中央値にも有意差が認められた。(14 months interquartile(IQR) 1-86 vs 54 months IQR 3-105, HR 1.46, 95%CI 1.18-1.79, p=0.01) (3)
また、Robinson JOらが559人のSAB患者に行った後向き研究では感染症への紹介(Infection deseases consultation: ICD)により感染1年後の死亡率は有意に低下するという結果となった(22.2% vs 44.9%, p<0.001)。これはICDによって適切な抗菌薬が使用される可能性が高くなることによると考えられる。(4)
以上の研究結果からは、day0における不適切な抗菌薬投与、感染源不明、BMI<24kg/m2、ICDがないことがSAB患者の長期予後における死亡リスクを上昇させる因子になると考えられる。また、MRSAに関しては、F.Hansesらの研究とYawらの研究で異なる結果となり、リスク因子となりうるのかどうかは不明である。SAB患者の長期生命予後延長のためにもSAB患者の治療の際に適切な抗菌薬を使用することの重要性が改めて示される結果となった。
参考文献
(1) 青木眞; レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 医学書院
(2) Hanses F, Spaeth C, Ehrenstein BP et al (2010) Risk factors associated with long-term prognosis of patients with Staphylococcus aureus bacteremia.
(3) Yaw LK, Robinson JO, Ho KM (2014) A comparison of long-term outcomes after methicillin-resistant and methicillin-sensitive Staphylococcus aureus bacteraemia: an observational cohort study.
(4) J. O. Robinson, S. Pozzi-Langhi, M. (2012) Phillips Formal infectious diseases consultation is associated with decreased mortality in Staphylococcus aureus bacteraemia
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。