注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
LRINEC scoreは壊死性筋膜炎の診断に有用か。
壊死性筋膜炎(NF, Necrotizing Fasciitis)は急速に進行する軟部組織感染症で、好気性菌と嫌気性菌の混合感染によるtype1とA群レンサ球菌によるtype2とその他に分けられる。NFを疑う場合は速やかにデブリードマンを行う必要があるため、迅速な診断が必要である。しかし、NFは早期に皮膚所見がみられることは少なく、もしみられたとしても早い時期に単純な蜂巣炎との区別は困難である。糖尿病や免疫抑制、肥満、薬物注射という軟部組織感染症の危険因子の聴取、局所皮膚所見と一致しない重度の痛みや全身状態の悪化、急速に進行する病変という病歴と臨床的な所見で疑い、外科的な切開によって確定診断する(1)。LRINEC (Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis) scoreはCRP、白血球数、Hb、Na、クレアチニン、血糖値を点数化することで、他の軟部組織感染症からNFを早期に診断するためのツールとして提案されているが、実際にこれが鑑別診断に有用であるのかについて調べた。
まずLRINEC scoreを提案したWong 氏らは、NFの患者145人と重症軟部組織感染症の患者309人を対象とした後ろ向き観察研究を行っている。6点をカットオフとしたところ陽性適中率92.0%、陰性適中率96.0%という結果を示し、診断ツールとしてこれを推奨した(2)。これに対してBarie氏らは、陽性適中率が高いのは、研究におけるNFの有病率が高い(40%)ことを理由として挙げて反論している。また、最終的に病理で確定診断していないことや、LRINEC scoreで早期診断ができたかについて触れられていないことを挙げて、議論が不十分であるとも指摘している (3)。さらに、Holland氏らの行った後ろ向き試験(4)では入院時にNFと診断された患者を、生検でNFと診断された患者群と、生検または入院経過でNFが否定された患者群の2つのグループに分けたところ、カットオフが6点では感度80%、特異度67%といずれも低かった。また、病理で確定診断されたNFの患者233人と重度の蜂巣炎の患者1394人を対象に行ったコホート研究では、6点をカットオフとすると、感度59.2%、特異度83.8%と十分な結果は得られなかった (5)。また、LRINEC scoreが0点であったにもかかわらず手術でNFが確認された症例もみられた(6)。
ただ、Holland氏らの行った後ろ向き試験(4)ではカットオフを5点にすると感度100%、特異度61%となり、逆にカットオフを8点とすると感度50%、特異度94%といった結果が得られた。この研究の全体の症例数が28例と少ないことや、軟部組織感染症におけるNFの実際の割合が非常に小さい(7)ことから、結果を鵜呑みにすることはできないが、ある程度の指標にはなりうる。
LRINEC scoreは従来提唱された6点をカットオフにした場合は感度・特異度ともに十分ではなく、診断には有用ではないが、カットオフ値を変えることで鑑別診断に有用となる可能性がある。
参考文献
- Hasham S et. al Necrotizing fasciitis; BMJ. 2005 Apr 9; 330(7495): 830–833.
- Wong CH et. al The LRINEC (Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis) score: a tool for distinguishing necrotizing fasciitis from other soft tissue infections. Crit Care Med. 2004 Jul; 32(7):1535-41.
- Barie PS et. al The laboratory risk indicator for necrotizing fasciitis (LRINEC) score: useful tool or paralysis by analysis? Crit Care Med. 2004 Jul;32(7):1618-9.
- Holland MJ et. al Application of the Laboratory Risk Indicator in Necrotizing Fasciitis (LRINEC) score to patients in a tropical tertiary referral centre. Anaesth Intensive Care. 2009 Jul; 37(4):588-92.
- Chun-I Liao et. al Validation of the laboratory risk indicator for necrotizing fasciitis (LRINEC) score for early diagnosis of necrotizing fasciitis; Tzu Chi Medical Journal. 2012 June; Vol.24(2):73-76
- Wilson MP et. al A case of necrotizing fasciitis with a LRINEC score of zero: clinical suspicion should trump scoring systems; J Emerg Med. 2013 May; 44(5):928-31.
- Ellis Simonsen SM et. al Cellulitis incidence in a defined population. Epidemiol Infect. 2006 Apr; 134(2): 293–299.
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