注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
黄色ブドウ球菌菌血症が感染性心内膜炎を合併する高リスク因子は何か
黄色ブドウ球菌による菌血症(Staphylococcus aureus Bloodstream Infection :SAB)の合併症である心内膜炎はカテーテルやステントなど血管内デバイスの使用の増加もあって発生が上昇している。黄色ブドウ球菌によるカテーテル関連感染症のうちの25%に感染性心内膜炎(Staphylococcus aureus infective endocarditis: SAIE)が合併するとされ、手術等の治療方針が大きく変化する。黄色ブドウ球菌に対する有効な抗菌薬が存在するにもかかわらず、SAIE死亡率は20~40%と高い水準にある。(1)従ってSABの患者の中からIEを合併するリスクを調べた。
Vincent Le MoingらのVIRSTA study groupはフランスの病院で2008人のSAB患者に対し前向きコホート研究を行った。まず患者を院内感染、市中感染、院外での医療関連感染の3つに分類すると、院内感染に対して院外での医療関連感染と市中感染は統計学的に有意差が認められた(院内感染をOR=1とするとそれぞれOR=3.76, OR=1.97, p<0.0001)。他には静脈注射薬の利用(OR=5.46, p<0.0001)、弁置換(OR=6.52, p<0.0001)、弁疾患(OR=3.27,p<0.0001)、C反応性蛋白>190mg/L(OR=2.19, p<0.0001)、またSABの診断から48時間以内の重度の敗血症または敗血症性ショック(OR=1.89, p=0.0005)、塞栓(OR=15.5, p<0.0001)、髄膜炎(OR=12.3, p<0.0001)、また48時間以上血液培養が陰性にならないこと(OR=3.69, p<0.0001)は統計学的にリスクが高いと言えることが分かった。 (2)
またRasmus V. Rasmussenらがデンマークの病院で244人のSAB患者に対し行った調査では、SAIEの高リスク因子として統計学的に有意差あるといえる要素は、感染源不明(IEを合併38% vs. IEを合併しない16%, p=0.001)、市中感染(57% vs. 34%, p=0.002)、静脈内薬物乱用(4% vs. 1%, p=0.2)、IEの既往(4% vs. 1%, p=0.2)、既存の心臓弁疾患の存在(19% vs. 4%, p=0.001)、人工心臓弁またはCRMDの使用(それぞれ11% vs. 7% p=1.4、 13% vs. 4% p=0.02)、また症状としては心雑音(43% vs. 18%, p<0.001)、塞栓(25% vs. 3%, p<0.001)、および血管または免疫学的現象の存在(11% vs. 1%, p<0.001)があった。これらの要素または症状を1つ以上有する者を高リスク患者、1つも持たない者を低リスク患者と定義すると、低リスクSAB患者におけるIEの有病率は5%であったのに対し、高リスクSABの患者の有病率は38%であった(p=0.007)。(3)
以上のことから、SABの患者の中でSAIEを合併する可能性を考えるうえでリスク因子を考慮することは臨床的にも有効であり、2つの研究で高リスクの要素に差はあるものの、市中感染や感染源が不明な場合、薬物の静注をしている場合、既存の心疾患や血管内デバイスの留置、2日以上改善されない熱、重症敗血症や髄膜炎の合併、心雑音、塞栓等がある患者はSAIEを合併するリスクが高いと評価し、特にSAIEの可能性を疑って血液培養検査、心エコーなど行い観察すべきだと考えられる。
参考文献
(1)ハリソン内科学第4版
(2) Vincent Le Moin, et al. Staphylococcus aureus Bloodstream Infection and Endocarditis - A Prospective Cohort Study. PLoS One. 2015 May 28;10(5):e0127385.
(3) Rasmus V. Rasmussen, et al. Prevalence of infective endocarditis in patients with Staphylococcus aureus bacteraemia: the value of screening with echocardiography. Eur J Ec
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