注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
糖尿病によって、肺炎球菌菌血症のリスクがどの程度上昇するのか
肺炎球菌感染症とは、肺炎球菌によって肺炎や気管支炎、菌血症、髄膜炎などの合併症を引き起こす疾患であり、肺炎球菌感染症における感染のリスクを上昇させる因子の1つとして糖尿病が挙げられる*1。さらに肺炎球菌感染症患者における肺炎合併症例において菌血症を伴う症例の死亡率は二倍である*2。そこで、今回糖尿病を背景に持つ患者はどの程度、肺炎球菌菌血症感染のリスクがあがるのかどうかについて調べてみた。
Thomsenら*3は1992年から2001年にかけてNorth Jutland County Bacteremia Registry,Denmarkで行われた、598件の肺炎球菌菌血症の症例を集め、さらに1症例ごとに10症例ずつ、年齢と性別が一致した対照症例として、ランダムに5980件の非肺炎球菌菌血症症例を集めて症例対照研究を行った。ここで、肺炎球菌感染症の他の危険因子による影響を調整するために糖尿病以外の18の危険因子においてCharlson index (値0:low risk,1~2:medium risk,>2:high risk)を用い、さらにその他の要因としてアルコール関連障害、入院前の抗生物質の使用についても加えて評価した。そして、人口寄与危険度(PAR)を以下の計算式で求めた。PAR=P×(OR-1)/〔{p×(OR-1)}+1〕。その結果、598件の肺炎球菌菌血症患者の内、最も多くみられた感染巣は気道485件(81%)であり、次に髄膜56件(9%)、そして不明、その他が39件(7%)であった。さらに肺炎球菌菌血症患者の内、53件(8.9%)が糖尿病患者である一方、対照症例の5980件の内、糖尿病患者の割合は298件(5.0%)であった。しかし、Charlson indexにおいて値1(medium risk)以上、もしくはアルコール関連障害をもつ症例の割合は肺炎球菌菌血症患者48%、対照症例27%であった。ゆえにCharlson indexとアルコール関連障害、入院前の抗生物質の使用を考慮して調整した、糖尿病患者のadjusted OR比(95%CI)は、1.5(1.1~2.0)であり、また性別、年齢によって分類したadjustedOR比(95%CI)は、男性1.8(1.2~2.8)、女性1.2(0.8~2.0)、40歳未満4.2(1.1~16.7)、40歳~65歳2.1(1.1~3.9)、65歳~80歳1.3(0.8~2.1)、80歳以上1.2(0.6~2.2)であった。これらより、前述のPAR式にOR=1.5、p=0.089、そして全体の糖尿病の罹患率を5.0%(P=0.05)と仮定すると、PAR≒0.024であり、つまり全体の2.4%、具体的には全体を1000人とすると24人は糖尿病に起因した肺炎球菌菌血症を発症すると考えられる。
この研究より、糖尿病によって肺炎球菌菌血症のリスクはadjusted OR比1.5になるとわかった。さらに性別では男性でより差がみられ、年齢では若ければ若いほど顕著な差がみられた。ゆえに全ての症例において糖尿病は肺炎球菌菌血症感染の危険因子となるが、男性であることや若年である場合はより危険因子となる。
【参考文献】
1)Daniel J Sexton, MD :Invasive pneumococcal (Streptococcus pneumoniae) infections and bacteremia This topic last updated: Nov 09, 2015.
2)青木 眞:レジデントのための感染症診療マニュアル第3版,医学書院,2015,1041-1053
3)Thomsen RW1, Hundborg HH, Lervang HH, Johnsen SP, Schønheyder HC, Sørensen HT :Risk of community-acquired pneumococcal bacteremia in patients with diabetes: a population-based case-control study. Diabetes Care. 2004 May;27(5):1143-7.
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