注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
CRBSIによるS.aureus菌血症において、迅速にカテーテルの抜去を行うことにどれだけの有効性があるか
CRBSIの起因菌として予後不良とされるS.aureusが同定された場合、速やかなカテーテル抜去が必要である1)とされているが、迅速にカテーテルの抜去を行うことにどれだけの有効性があるのか疑問に思い調べた。
Vanceらは、91ヶ月の期間にわたって血管内カテーテル関連S.aureus菌血症の患者324人を調査した。そこでカテーテル関連の血行性の合併症(ここでは化膿性関節炎、化膿性脊椎炎、心内膜炎とする)が生じるリスクファクターとしては、感染発覚後にカテーテルの抜去が行われないこと(RR2.28、95%CI、2.08-7.10)と、カテーテルを抜去した患者のうち、症状の発症からカテーテル抜去までの期間が長いこと(5days vs 2days; P <0.001)が挙げられた。このことから感染後に迅速なカテーテルの抜去が行われるかどうかで、合併症が生じるリスクに有意差が生じるといえる。また一方で、抗生物質による治療の開始までの期間が長いことによって、合併症のリスクに有意差はみられなかった2)。
Malanoskiらは2年の期間で、血液培養でS.aureus陽性の患者のうち血管内カテーテルが原因であると考えられる50人を調査した。培養が陽性であることが発覚してすぐに抗生物質による治療が行われた患者に関して、迅速にカテーテルが抜去された患者とそうでない患者で、治療開始から培養が陰性化するまでの日数を比較した。菌血症発覚後48時間以内にカテーテルが抜去された患者に比べて抜去が遅れた患者は、陰性化までに多くの日数を要した (P=0.07 by Wilcoxon Rank-Sum Test)。また適切に抗生物質による治療が行われなかった患者に関して、迅速にカテーテルが抜去された患者とそうでない患者で、菌血症による致死率を比較した。菌血症発覚後48時間以内にカテーテルを抜去されなかった患者10人のうち2人(20%)、早期に抜去された患者39人のうち2人(5%)が死に至った(p=0.18)。調査対象となった患者数が少なく、迅速なカテーテルの抜去が行われるかどうかで患者の予後に有意差が生じるとは言い切れないが、迅速なカテーテルの抜去が患者により良好な治療効果をもたらす可能性は十分に示されたと考えられる。また一方で、抗生物質による治療開始の遅れは致死率に有意な影響を及ぼさず、菌血症発覚後24時間以内に治療を開始した患者40人のうち4人(10%)、24時間以内に開始しなかった患者10人のうち1人(10%)が死に至った3)。
以上の2つの症例対照研究から、CRBSIによるS.aureus菌血症において、抗生物質による適切な治療開始までの時間で予後に有意差はみられないが、菌血症発覚後迅速にカテーテルの抜去を行うことは、患者の致死率、治癒までの期間の両方に関して有効であるという結果が得られた。これらの有効性を考慮すると、臨床上でのCRBSIによるS.aureus菌血症において、代替できる静脈アクセスがない、重篤な出血性素因があるなど、他部位へカテーテルを再留置することのデメリットの方が大きいと考えられる場合を除いて、迅速にカテーテルの抜去を行うべきだという結論に十分な妥当性があるといえる。
【引用文献】
1)臨床に直結する感染症診療のエビデンス(文光堂)
2)Fowler VG Jr1, Justice A, Moore C, Benjamin DK Jr, Woods CW, Campbell S, Reller LB, Corey GR, Day NP, Peacock SJ. Risk factors for hematogenous complications of intravascular catheter-associated Staphylococcus aureus bacteremia. 2005 Mar 1;40(5):695-703. Epub 2005 Feb 4.
3)Malanoski GJ Samore MH, Pefanis A, Karchmer AW. Staphylococcus aureus catheter-associated bacteremia. Minimal effective therapy and unusual infectious complications associated with arterial sheath catheters. Arch Intern Med 1995; 155;1161-6.
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