ついにできました!超豪華執筆陣で、とてもおすすめの本書です。ぜひご覧ください。
- 青島周一(徳仁会中野病院薬局)
- 赤木祐貴(国立病院機構横浜医療センター薬剤部)
- 岩岡秀明(船橋市立医療センター代謝内科)
- 岩田健太郎(神戸大学医学部附属病院感染症内科)
- 岩本修一(広島大学病院総合内科・総合診療科)
- 大野 智(大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座)
- 鎌田一宏(東京城東病院総合内科)
- 岸田直樹(感染症コンサルタント/一般社団法人Sapporo Medical Academy)
- 金城紀与史(沖縄県立中部病院総合内科)
- 金城光代(沖縄県立中部病院総合内科・リウマチ膠原病科)
- 倉原 優(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内科)
- 笹木 晋(藤田保健衛生大学病院救急総合内科)
- 佐藤直行(沖縄県立中部病院総合内科)
- 徳田安春(総合診療医学教育研究所)
- 名郷直樹(武蔵国分寺公園クリニック)
- 能登 洋(聖路加国際病院内分泌代謝科/東京医科歯科大学)
- 林 哲朗(国立病院機構東京医療センター総合内科)
- 尾藤誠司(国立病院機構東京医療センター総合内科)
- 福士元春(武蔵国分寺公園クリニック)
- 宮内倫也(名古屋大学大学院精神医学分野)
- 本村和久(沖縄県立中部病院プライマリケア・総合内科)
- 森川日出男(国立病院機構東京医療センター総合内科)
- 森田達也(聖隷三方原病院緩和支持治療科)
- 山田康博(国立病院機構東京医療センター総合内科)
- 山本舜悟(神戸大学医学部附属病院感染症内科)
- 横林賢一(広島大学病院総合内科・総合診療科/Harvard T.H. Chan School of Public Health)
医薬品の価値は「他者との比較」によってなされるものである.単に,ある医薬品の効能や副作用を勉強するだけでなく,その薬が他との相対的な関係からど のような位置にあるというそのポジショニングが重要である.そのことがわかって初めてAとBとCの薬の使い分けができるのである,と編者は説いている.製 薬メーカーから進められた1つの薬を漫然とお気に入りにするのではなく,なぜBでもなく,CでもなくAが良いのかきちんと整理して使えてこそAという薬を 十分に理解できるのである.本書では「あれ」のみを単独で学ぶのではなく,「あれ」と「これ」の違いを臨床的に吟味し,どのように使い分け,あるいは差別 化するのか比較検討している.大事なことは「臨床的に意味のある違い」であり,些細な構造式の違いや臨床的にはどうでもよい薬理学上の属性には拘泥してい ない.あくまで現場で役に立つ差別化が本書の目的である.本書を読んで,薬の使用者たる医師や看護士,薬剤師さん達に医薬品の正しい選び方を学んでもらい たい.すべての医療従事者にお薦めのユニークな書である.
はじめに
医薬品の価値は「他者との比較」によってなされる。単にある医薬品の効能や副作用を勉強するだけではだめで,その薬が他との相対的な関係からどの位置にいるか,そのポジショニングが重要になる。それが分からなければAという薬とBという薬の使い分けはできない。
典型例はスルペラゾン(セフォペラゾン・スルバクタム)である。しばしば「胆汁移行性がよい」という理由で胆管炎に用いられるセフェム系抗菌 薬がスルペラゾンだ。確かに,セフォペラゾンは胆汁に濃縮されやすい。しかしアンピシリンやトリメトプリム,メトロニダゾールやクリンダマイシンも胆汁移 行性は十分にある。スルペラゾンが胆管炎に対して特別優れた抗菌薬ではないのだが,スルペラゾン「だけ」単独で勉強すると,そして製薬メーカーの説明会は たいていそういう内容なのだが,このような事実は学べないのである。
他者との相対的な違いを学ぶ学び方は,単独である事物について学ぶよりもより構造主義的で,より学習者の成熟を要する学びである。製薬メー カーの印象操作に踊らされ,臨床的に妥当ではない医薬品を選択する医師はとても多い。薬の学び方が相対的ではないからである。ディオバンのような臨床試験 上の捏造が起きるのも,使用者たる医師や薬剤師が「相対的に医薬品を学ぶ習慣」を持っていないことが遠因である。
漫然とAという薬を使い,「お気に入り」にしてしまうのではなく,なぜBではなく,Cでもなく,Aなのかをきちんと整理して使えるようになっ て初めてAという薬は十全に理解されるのである。ライプニッツの論理学のように,なぜAなのかだけではなく,なぜBではないのか,まで突き詰めて考えなく てはならない。
もちろん,類似薬のhead to headの比較試験は少ない。AとBのガチンコ勝負は両者を作るメーカーにとっても危険なギャンブルだからである。従って本書もすべてを(いわゆ る)evidence basedにすることは叶わない。しかしながら,プロフェッショナルが虚心坦懐に医薬品を吟味し,相対的に,臨床的に評価することはたとえガチンコのエビ デンスが乏しくても可能であると思う。
本書は「あれ」のみを単独で学ぶのではなく,「あれ」と「これ」の違いを臨床的に吟味し,どのように使い分けるか(あるいは差別化するのか) を検討するものである。大事なことは「臨床的に意味のある違い」である。些細な構造式の違いや臨床的にはどうでもよい薬理学上の属性には本書は拘泥しな い。あくまで現場で役に立つ差別化が本書の目的だ。本書を読んで,医薬品の学び方を学んでいただきたい。
2015年10月
岩田健太郎
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。