注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
MSSAの初期治療におけるバンコマイシン投与の是非
現在、黄色ブドウ球菌の治療として、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の治療には、バンコマイシンが選択されている。一方、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)の治療には、抗菌薬感受性試験の結果が出るまではMRSAにも感受性のあるバンコマイシンが選択され、結果が出た後、ナフシリンやオキサシリンやセファゾリンのようなベータラクタム剤に変更するデ・エスカレーション療法が行われている。(1) このMSSAの初期治療におけるバンコマイシン投与は最適な治療法なのかを考察する。
KimらによるMSSAによる菌血症298人を対象とした症例対象研究では、MSSAによる菌血症をバンコマイシンで治療した群と、ベータラクタム剤で治療した群を比較したところ、死亡率は前者が有意に高かった(37% vs 18%)。(2)
LodiseらによるMSSAによる感染性心内膜炎を持つ入院患者72人を対象とした後向きコホート研究では、初期治療にバンコマイシンを使いMSSAと判明した後にベータラクタム剤に変更した群と、初めからベータラクタム剤で治療を行った群を比較したところ、死亡率は前者が有意に高かった(40.9% vs 11.4%)。(3)
よってこれらの研究によると、MSSAはバンコマイシンで治療を行うと、その投与が初期に限っていても患者の死亡率がさがってしまうため、ベータラクタム単剤での治療が最適である。しかし、抗菌薬感受性試験の結果が出るまでの初期にベータラクタム単剤で治療することは、MRSAであった場合のリスクを考えると行うことが出来ない。そこで初期治療にバンコマイシンに加えてベータラクタム剤を併用すれば、死亡率の改善が予測され、バンコマイシン単剤投与に比べて適していると考える。しかし、経験的にMSSAに対する治療成績が良くなるであろうと示唆されている(4)が、それを証明するランダム化比較試験がないため、バンコマイシンとベータラクタム剤の併用療法が、死亡率を改善するとは現段階では言い切れない。上記の研究結果を考えると、今後バンコマイシンとベータラクタム剤の併用に関する更なる研究成績の蓄積が強く望まれる。
<参考文献>
(1) Vance G Fowler, Daniel J Sexton. Clinical approach to Staphylococcus aureus bacteremia in adults. Up to date
(2) Sung-Han Kim, Kye-Hyung Kim, Hong-Bin Kim, Nam-Joong Kim, Eui-Chong Kim, Myoung-don Oh, Kang-Won Choe. Outcome of vancomycin treatment in patients with methicillin-susceptible Staphylococcus aureus bacteremia. Antimicrobial Agents and Chemotherapy 2008 Jan; 52(1):192-7
(3) Thomas P Lodise Jr, Peggy S McKinnon, Donald P Levine Michael J, Rybak. Impact of empirical-therapy selection on outcomes of intravenous drug users with infective endocarditis caused by methicillin-susceptible Staphylococcus aureus. Antimicrobial Agents and Chemotherapy 2007 Oct; 51(10):3731-3
(4) Kevin W McConeghy, Susan C Bleasdale , Keith A Rodvold. The Empirical Combination of Vancomycin and a β-Lactam for Staphylococcal Bacteremia. Clin Infect Dis. 2013 Dec; 57(12):1760-5
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