注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
結核診断におけるT-SPOT検査の有用性
結核は、日本でも毎年新たに2万人以上の患者が発生している重要な感染症の一つであり1、結核菌に感染しているが無症状である潜在性結核と活動性結核がある。活動性結核は、症状や病歴の聴取、胸部X線、CTによる画像検査により疑われ、喀痰や胃液からの培養検査によって診断が確定する。結核菌が培養検査によって陰性となった場合は、組織検査や免疫学的検査などの結果によって総合的に判断する。T-SPOT検査は、結核の診断に近年用いられるようになったインターフェロンγ遊離試験(interferon Gamma Release Assay:IGRA)の一種である2,4。T-SPOT検査が一般的に活動性結核の診断に有用となりうるかについて調べてみた。
M.sesterらによる、IGRAの活動性結核診断における有用性に関する2001年から2009年までの27の研究を対象として行ったシステマティックレビューによると、T-SPOT検査の感度、特異度はそれぞれ81% (95% CI 78–84%)、59% (95% CI 56–62%)であった4。
LinFanらが1980年から2011年までの、肺外結核に対するIGRAの診断における感度と特異度について調べた20の論文に対するシステマティックレビューによると、T-SPOT検査の感度、特異度は89% (95% CI 85–92%)、73% (95% CI 68–77%)であった5。
John Z. Metcalfeらは2010年5月の段階で発表されていた27の、低、中所得の国々で行われたIGRAの感度と特異度について調べたシステマティックレビューによると、T-SPOT検査の感度はHIV非感染者に対しては88%(95% CI 81%–95%)、HIV感染者に対しては76%( 95% CI 45%–92%)であった。HIV感染者に対しては非感染者に対してよりも低下していた。特異度については、全体としては61%(95%CI 40%-79%)、HIV感染者では52%( 95% CI 40%–63%)で、HIV非感染者に対しては、研究が不十分であった6。
これらの報告からは、T-SPOT TBは活動性結核の診断においては感度、特異度とも不十分であり、スクリーニング、確定診断のいずれを目的としても実施する検査としては適しておらず、T-SPOT検査は従来から行われていた画像検査や培養検査にとって代わるものではないと考えられた。仮に陽性であった場合でもただちに治療を開始する状況と判断はできず、活動性結核がないかについて画像や病歴によって詳細な検査をすべきである。
1. 結核症の基礎知識(改訂4版) 日本結核病学会
2. インターフェロンγ遊離試験使用指針、日本結核病学会予防委員会Kekkaku vol.89,No.8:717-725,2014
3. 第56巻 日本公衛誌 第 5 号 わが国の結核対策の現状と課題
4. Eur Respir J. 2011 Jan;37(1):100-11 Interferon-γ release assays for the diagnosis of active tuberculosis: a systematic review and meta-analysis.
5. FEMS Immunol Med Microbiol. 2012 Aug;65(3):456-66 Interferon-gamma release assays for the diagnosis of extrapulmonary tuberculosis: a systematic review and meta-analysis.
6. J Infect Dis. 2011 Nov 15;204 Interferon-γ release assays for active pulmonary tuberculosis diagnosis in adults in low- and middle-income countries: systematic review and meta-analysis.
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