注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
壊死性筋膜炎に対するLRINEC scoreの有効性
壊死性筋膜炎であれば早期外科的デブリドメンが予後を左右する。しかし、軟部組織感染症との鑑別など、早期に診断するのは困難なことが多い。そこで診断に補助的に用いられるというLRINEC scoreの有効性について調べた。LRINEC scoreとは、血清CRP≧150 mg/L(4点)、WBC15000-25000/μL(1点) or >25000/μL(2点)、Hb11.0-13.5 g/dL(1点) or ≦11g/dL(2点)、血清Na<135 mEq/L(2点)、血清Cre>1.6 mg/dL(2点)、血清Glu>180mg/dL(1点) の6項目の合計点で使われるスコアリングのことである。
145名の壊死性筋膜炎患者と309名の重症蜂窩織炎又は膿瘍の患者が対象として後ろ向き観察研究を行った。入院時に行われた血液生化学検査の結果が解析され、有意な指標の検出に単変量・及び多変量ロジスティック回帰分析が行われ、WBC、Hb、Na、血糖、クレアチニン、CRPが選ばれた。カットオフ値は6点で、PPV92%、NPV96%となり、LRINEC scoreが6以上のものは壊死性筋膜炎があるとして慎重に扱うべきであるという結論がなされた。1) また、このLRINEC scoreを使って、後ろ向き試験を行ったところ、PPV80%、NPV91%と上記の結果とはまた解離した結果となり、スコアの再評価を行い、従来のスコアリングから、検査項目の削除、追加に加えて、臨床症状も考慮したスコアリングが2015年に発表された。そこでは、2001~2010年の間、29名の壊死性筋膜炎患者、59名の蜂窩織炎患者を対象に後ろ向き研究が行われた。Glu、Naの項目を削除して、赤血球(<4×106/μl 1点)、フィブリノーゲン(>750mg/dl 2点)、CRP>100mg/dl(2点)の項目 を加えた。また、関連する臨床症状として、痛み(強い2点 中間1点 少し/無い0点)、熱(≧38℃ 2点 37.6-37.9℃1点 ≦37.5℃ 0点)、頻脈(>100/min 1点)、AKI兆候(1点)も加えたところ、壊死性筋膜炎患者のうち、83%がhigh risk,10%がsuspcion,7%がno signであった(high risk群 のカットオフ値は9点)。一方、蜂窩織炎患者のうち、10%がhighrisk,10%がsuspicion,80%がno signに分類された。High risk群におけるPPVが、0.76→0.8に、NPVが0.77→0.91と改善が見られた(従来のLRINEC scoreでのhigh risk群のカットオフ値は8点)。2) 検査値だけでなく、臨床症状も考慮することで、より診断に対する有効性は増したと思われる。また、従来のLRINEC scoreを用いて、壊死性筋膜炎患者のみを対象として、死亡率の予測能を再評価したところ、感度63.6%、特異度55.1%であり、尤度比1.41と求められた。切断率においても、感度65.5%、特異度58.4%であり、同様に尤度比が1.53となった。このことから、壊死性筋膜炎の予後に対する従来のLRINEC scoreの有効性はあまり信頼できないと思われる。3)
以上より、壊死性筋膜炎の診断、鑑別の助けにはなるが、予後に対してはあまり有効ではないと考えられる。しかし、これらの研究自体が後ろ向き試験なので実際使ってみないと効果はわからない、ということと、壊死性筋膜炎患者のほうが蜂窩織炎患者に比べて臓器障害などの疾患を持っている人がはるかに多いので、適切な比較群でなければならないという問題がある。つまり、重症蜂窩織炎の患者のいる前向き試験においてその有用性が実際に確かめられるまでは、その有効性は確証できない。
文献) (1) The LRINEC (Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis) score: a tool for distinguishing necrotizing fasciitis from other soft tissue infections./ Crit Care Med. 2004 Jul;32(7):1535-41. (2) Improvement of a Clinical Score for Necrotizing Fasciitis: 'Pain Out of Proportion' and High CRP Levels Aid the Diagnosis./ PLoS One. 2015 Jul 21;10(7):e0132775 (3) Laboratory risk indicator for necrotizing fasciitis score and the outcomes. / ANZ J Surg 2008;78: 968–72.
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