注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
糖尿病足感染症が合併する骨髄炎に対する抗菌薬治療の治療期間について
糖尿病性足感染症(Diabetic Foot Infections : DFIs)は、糖尿病患者にとって一般的でかつ深刻な問題である。通常、糖尿病性足疾患は、末梢神経障害により痛覚や圧迫感を失った結果傷つきやすくなった、血行が不十分な皮膚にできた微細な外傷から発生する1。この内、炎症と化膿の古典的所見が2つ以上見られるものが感染をおこしているものとして、DFIsと定義されている。DFIsに合併する骨髄炎は糖尿病性足骨髄炎(Diabetic Foot Osteomyelitis : DFO)と呼ばれ、このDFOへの対応がDFIsの管理を一層複雑にしており、議論の的になっている。慢性骨髄炎に対する治療では骨切除が重要な要素だと考えられてきたが、近年の抗菌薬治療単独による治癒の報告により、その考え方に異議が唱えられるようになった。通常、感染組織を残さず切除した場合の抗菌薬治療には2~5日間、感染骨を残して切除した場合には最低4週間以上の抗菌薬治療が推奨されている2が、今回はDFOの外科的切除を選択しない場合の抗菌薬治療ではどれほどの治療期間が適切であるかを疑問に思ったので、考察してみたい。
まず、米国感染症学会が2012年に出したDFIs診療ガイドラインを参照すると、外科的処置をしなかった、もしくは処置後に腐骨が残った場合のDFOに対する抗菌薬治療期間は3ヶ月以上とされている。この根拠は、臨床現場での治療傾向によるものとされており、同ガイドラインにおいては14個の非ランダム化ケースシリーズで、3-6ヶ月の抗菌薬治療で65%-80%の治癒率を得ているとしている2。
また、Sennevilleらは2002年から2003年にかけて50人のDFO患者を対象として、外科的治療を行わないでどれだけが寛解に至るかを調べる後ろ向きコホート研究を行った。この研究におけるDFOの寛解は、治療期間中とフォローアップ期間中において新しい感染エピソードや足部への整形外科的な手術を必要とする事態が見られず、かつ治療終了から少なくとも一年間、原発部位、もしくはその近接部位において感染の兆候が見られないこと、と定義される。結果として全体で32人(64%)が寛解に至り、寛解した患者のみでの抗菌薬治療期間の平均は12.4週であった3。
一方でToneらは2007年から2009年にかけて40人のDFO患者を対象にして、外科的処置を行わない場合に寛解に至るための抗菌薬治療期間は6週間と12週間のどちらが適当であるかについてランダム化比較試験を行った。ここでのDFOの寛解とは、局所でも全体でも感染兆候が見られないこと、治療終了後一年経過時のX線写真で異常所見が見られないこと、骨髄炎を引き起こした創傷が完全に治癒していることと定義される。全体では26人(65%)が寛解に至り、6週間では20人中12人(60%)、12週間では20人中14人(70%)が寛解となったが、2つの寛解率に有意な差は認められなかった(P=0.50)。また、消化器系の有害事象(悪心、嘔吐、下痢、肝障害)は12週間の患者と比べると6週間の患者の方が有意に少なかった(P=0.04)。この結果は、抗菌薬治療期間には6週間を選択する方が有用性の高いことを示唆している4。
以上の結果をふまえて、DFOの外科的処置を行わない場合の抗菌薬治療期間について考えると、治療期間には平均的に3ヶ月、12週間は必要だとこれまで考えられてきたが、最近の研究では6週間まで短縮できる可能性が示唆された。抗菌薬の投与期間は短くなるほど副作用のリスクは減少することから、これからのさらなる治療期間短縮への検討が期待される。
<参考文献>
1)レジデントのための感染症診断マニュアル 第3版 青木眞:p822
2) Lipsky BA, Berendt AR, Cornia PB, Pile JC, Peters EJ, Armstrong DG, Deery HG, Embil JM, Joseph WS, Karchmer AW, Pinzur MS, Senneville E. Infectious Diseases Society of America.2012 Infectious Diseases Society of America clinical practice guideline for the diagnosis and treatment of diabetic foot infections. Clin Infect Dis. 2012 Jun;54(12):e132-73.
3) Senneville E, Lombart A, Beltrand E, Valette M, Legout L, Cazaubiel M, Yazdanpanah Y, Fontaine P. Outcome of diabetic foot osteomyelitis treated nonsurgically: a retrospective cohort study. Diabetes Care. 2008 Apr;31(4):637-42.
4) Tone A, Nguyen S, Devemy F, Topolinski H, Valette M, Cazaubiel M, Fayard A, Beltrand É, Lemaire C, Senneville É. Six-week versus twelve-week antibiotic therapy for nonsurgically treated diabetic foot osteomyelitis: a multicenter open-label controlled randomized study. Diabetes Care. 2015 Feb;38(2):302-7
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