という本を出しました。以下、目次と「はじめに」から
第1章 糖質制限は本当に体によいのか?
異論のある議論をどう扱うか/対話の大切さ
第2章 健康「トンデモ」本の特徴
極論が多い/「西洋医学は信用できない」「科学では説明できないこともある」を連発する/科学を批判するわりに、科学の権威をありがたがる/しかし、人間に関するデータは少なく、ほとんど動物実験/「自然治癒力」「日本古来の」「古代からの」「自然免疫力」「抗酸化作用」といった「キラキラワード」を多用する/論理の飛躍、拡大解釈、過度の一般化
第3章 怪しい情報を真に受けない
ビタミンCは「風邪に効く」のか/「自然免疫力」は「自然」とは関係ない、という話
/飛躍、極論の内海聡/不食ははたして本当か/肉を食べれば健康になれる?
第4章 食べ物の「常識」を疑ってみる
「マクガバン報告」は本当か/赤ワインは体に良いか/では、結局糖尿病の患者は何を食べればよいのか 糖尿病を予防するには?/高血圧にならない食事、高血圧になった後の食事/無農薬野菜でないと、だめなのか
第5章 食べる食べないを適度に考えるために
ためになる本もあるけれど/グリシンで死を招く/がんは食事で消えるのか/ビタミンCでがんは治るか/人工甘味料はどのくらい健康に悪いか/脂肪をたくさんとりなさい」は本当か
第6章 日本の食、価値の変遷を追う
第7章 食べ物のことは他人に聞くな、自分に聞け
食べ物に対するセンサー/ゆっくり食べる/集中して食べる/感謝して食べる/体調に合わせて食べる。季節や気候に合わせて食べる/ほどほどに食べる/自分でたまには料理する。自分で食材を買う/細かいことにこだわりすぎない たまにはハメを外す
はじめに
みなさん、こんにちは。岩田健太郎という内科医です。
本書は食べ物と健康に関する本です。
そういう本って世の中にたくさん出ていますよね。でもぼくは「人と同じこと」をするのはあまり好きではないので、類書との差別化を図りたいと思っています。
通常、「食べ物と健康」を扱う本では「こういうものを食べろ」「病気にならないためのたった一つの食べ物(?)」「これを食べればがん知らず」のようなタイトルのものが多いです。マニュアル本的に「こうすればよいのだ」というシンプルな指南です。
本書はそのような親切な作りはしていません。「健康に良い食べ物は人に聞くな、自分で決めろ」というまことに一見不親切な本です。
しかし、一見不親切な本ではありますが、これは健康を真面目に考えた場合至極まっとうな結論なのです。内科医のぼくが言うのですから、間違いありません。大切なのはみなさんの「感性」なのです。
本書執筆のきっかけは、「いわゆる」糖質制限食にあります。
糖質というのは炭水化物と(ほぼ)同じ意味です。具体的には砂糖(グルコース)や果物の甘み(果糖)、パンや米、パスタなど、日本で俗に「主食」と呼ばれている食べ物たちなどを指します。
パンや米を「糖」と呼ぶのはちょっと違和感があるかもしれませんが、化学構造式ではお米もパンも糖の誘導体からなる大きな分子なのです。炭水化物と呼ぶのは、これが炭素、水素、酸素からなっており、炭素(C)と水(H20)で表記されるCn(H2O)mで表記されるからです。ただ、「一般用語」では砂糖のような「甘み」は炭水化物とはあまり呼ばないですね。
要するに、糖質制限食とは、(いわゆる)糖分、(いわゆる)炭水化物を制限する食事ということになります。
これが近年日本で流行しています。体重減少や糖尿病の治療効果が高いと主張する医師が増え、またその医師自身が糖質を制限することでダイエットに成功した、といういわゆるダイエット本も出るようになりました。糖質制限をする人たちを「セイゲニスト」なんて呼ぶようにもなりました。
ところが、糖尿病の専門家の中にはこのような糖質制限食に否定的な見解を示す人も出てきました。2012年7月27日の読売新聞朝刊にて、日本糖尿病学会の門脇孝理事長が「炭水化物を総摂取カロリーの40%未満に抑える極端な糖質制限は、脂質やたんぱく質の過剰摂取につながることが多い。短期的にはケトン血症や脱水、長期的には腎症、心筋梗塞や脳卒中、発がんなどの危険性を高める恐れがある」と指摘、糖質制限食を批判しました。
これに対し、糖質制限食を推奨し、一般向けの健康本も出版している江部康二氏は、自身のブログにおいて、門脇氏のコメントには根拠(エビデンス)がないと反論しました。
さらに2013年3月18日には、日本糖尿病学会が「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言」を発表し、「炭水化物のみを極端に制限して減量を図ることは、その本来の効果のみならず、長期的な食事療法としての遵守性や安全性など重要な点についてこれを担保するエビデンスが不足しており、現時点では薦められない」と声明を発表しました。この声明についても賛否両論の議論が医学界で起きています。
実は糖質制限食はそれほど新しい概念ではありません。ぼくは1990年代にアメリカで内科研修医をしていましたが、そのときアメリカでは「アトキンス・ダイエット」と呼ばれる糖質制限食が大流行していました。アメリカの心臓内科医、ロバート・アトキンスが推奨したものでした。そのときもアメリカではこの食事方法について賛否両論の大議論が起きていました。ぼくは日本における現在の糖質制限食論争をみていて、強い既視感を覚えたもののです。
さて、このような医学的、栄養学的論争がある場合、我々はどうしたらよいのでしょうか。
本書では、そこからまず検討してみようと思います。さらに、近年たくさん出版されている「健康になるための食べ物」系の本がどこまで信用できるか、その根拠とともにお示しします。さらに、食と健康の捉え方を歴史的に考えるうえでとても重要な資料、漫画の「美味しんぼ」とその未来について考えます。最後に「で、結局どうすればいいの?」という問題を扱います。その結論は、先取りして申し上げておくと、本書のタイトル「自分に聞け」となるのですが、どうしてそうなるのかは本書を読んでいくうちに自然に理解できるような仕掛けになっています。
では、また「おわりに」でお目にかかりましょう。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。