注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
気管挿管下の人工呼吸患者における
Selective Decontamination of the Digestive Tract(SDD)の有用性に関して
ICU患者における入院感染症の発生は致命的な問題であり、死亡率は非発症群の2倍となる(1)。なかでもVentilator-associated pneumonia(VAP)は、気管挿管下の人工呼吸患者の21.9%に生じ、その42%が死亡する(2)。そのためVAPなどの院内感染症予防はICU治療における重要な課題であり、画期的な予防法が模索されている。
その一として、VAPなどの感染症の原因となりうる好気性グラム陰性桿菌および真菌の消化管からの侵入を抑制することを目的とし、経静脈投与の抗菌薬と合わせて、非吸収性の抗菌薬や抗真菌薬を口腔鼻腔内塗布・経管投与・注腸投与する選択的消化管除菌(SDD)が検討されてきた。
オランダでA.M.G.A. de Smet, M.Dらにより2004年5月から2006年7月の間に行われた、5939人の人工呼吸器管理が48時間以上になると予想された患者、もしくはICU滞在が72時間を超えると予想された患者を対象にした、SDDの有効性に関するランダム化クロスオーバー試験にて、28日死亡リスクが有意に減少する(HR0.83:95%CI 0.72-0.97)ことが示され(3)、SDDの有効性が示唆された。
しかし、Liberati AらのSDD有効性を検証するsystematic reviewによれば、SDDによりICU患者の死亡率が優位に低下したのは17の研究のうちオランダとドイツで行われた2研究のみであった(4)。
これはオランダやドイツ以外の地域ではMRSAなどの耐性菌分離率が高い(MRSA分離率:オランダ:2%、ドイツ:4.9%、イギリス:29.7%、アメリカ:34.2%)(5)ために、SDDが耐性菌の勢力を増大させてしまうことによると考えられる。
また、オーストリアにおけるLingnau Wらの研究では、SDD施行群(ポリミキシンE、トブラマイシン、アムホテリシンB、シプロフロキサシンの4日間の投与)において、シプロフロキサシン耐性菌がプラセボ群と比較して有意に増加する(52.5%vs23.3% P<0.001) (6)と報告され、SDDにより耐性菌の発生が助長される事も示唆された。
以上のことをふまえ、SSCG(Surviving Sepsis Campaign Guidelines)2012では、SDDが有効と考えられる医療施設や地域において行ってもよい(Grade 2B)と表記されるにとどまっており、今後のレジメンの改良や研究に期待したい。
(1) Vincent JL et al. International study of the prevalence and outcomes of infection in intensive care units. JAMA. 2009 Dec 2;302(21):2323-9.
(2) J Rello et al. Incidence, etiology, and outcome of nosocomial pneumonia in mechanically ventilated patients. Chest. 1991;100(2):439-444.
(3) A.M.G.A. de Smet, M.D te al. Decontamination of the Digestive Tract and Oropharynx in ICU Patients. N Engl J Med 2009; 360:20-31January 1, 2009
(4)Liberati A et al. Antibiotic prophylaxis to reduce respiratory tract infections and mortality in adults receiving intensive care. Cochrane Database Syst Rev. 2009 Oct 7;(4):CD000022.
(5) Diekema DJ et al.Survey of infections due to Staphylococcus species: frequency of occurrence and antimicrobial susceptibility of isolates collected, 1997-1999. Clin Infect Dis. 2001 May 15;32 Suppl 2:S114-32.
(6) Lingnau W et al. Changing bacterial ecology during a five-year period of selective intestinal decontamination. J Hosp Infect. 1998 Jul;39(3):195-206.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。