たくさんの方のご助力を得て、旅行医学(渡航医学)のバイブル、キーストンを訳出できました。今年はデングやエボラが話題になりましたが、公衆衛生、産業衛生、国際医学、感染症、プライマリ・ケアなど関係者には必携の本だと考えています。どうぞご覧くださいませ。
はじめに、を転載します。
旅行医学のバイブル的Keystoneの最新版を訳出できるのは望外の喜びです。 2013年に海外に行った日本人は1743万人、日本を訪れた旅行者数は1036.4万人です(観光庁)。世はグローバルだグローバルだと言われ、2020年には東京オリンピックが再度開催され、今後も日本を行き来する人々は増えていくことでしょう。海外の感染症であったデング熱が国内で流行し、西アフリカの感染症であったエボラ感染症が日本の(そして世界中)の感染対策を脅かす時代です。世界は狭くなり、海外の出来事は日本と無縁ではいられないのです。バイブル、Keystoneはこのような新興・再興感染症対策に非常にフィットしたテキストです。 感染症ばかりが注目されがちな旅行医学ですが、それだけが旅行医学なのではありません。Keystoneの守備範囲は既存の旅行医学のテキストとは一線を画し、非常に幅広い内容を詳細に扱っています。移民や難民、養子の問題、災害の問題。飛行機に乗ること「そのもの」のリスクから、メンタルヘルスまで、非常に幅広い内容です。人口の少なからぬ人たちは海外に行き、海外に行くが故の健康リスクを背負うわけです。本書は感染症のプロのみならず、プライマリケアのプロにもぜひ広く読んでいただきたいと思っています。 海外で働く人も増えています。産業保健、労働衛生的にも国際的な視野は欠かせません。産業医、労働衛生関係者、公衆衛生関係者にも本書はオススメです。 慢性疾患を持つ人に「旅行に行くな」というのは簡単です。本書では「どうやったらリスクを最小限に旅行できるか」という観点から「旅行に行けない理由」ではなく、「旅行に行ける条件」を吟味します。素晴らしいプロフェッショナリズムだと思います。このような健康リスクを相対視する見方は旅行医学のみならず、多くの医療領域に応用できると思います。できるだけ患者にイエスといい、ノーと言わない医者になる術を学べます。 Keystone医師に初めて会ったのは確か2002年くらいだったと思います。カナダにおける感染症の集まりで、旅行医学のレクチャーを聞きました。ユーモアとイマジネーションにあふれた爆笑ものの素晴らしい講義でした。ペニスをダニに噛まれたあとのリケッチア感染症を、「これが本当のdick typhus」とオヤジギャグ全開でした(わからない人は、まあいいです)。本書はKeystone氏の人柄もあって、非常に豊かなコンテンツを持っていますが、訳文がそれを邪魔しないよう最善を尽くしました。大著ではあるが、読みやすい本になっていることを切に希望しています。 Keystoneは長年、訳出したい本でしたが「商売にならない」と出版社からはいい顔をされませんでした。ようやく時代が追いついてきたように思います。出版にこぎつけていただいたメディカル・サイエンス・インターナショナルの佐々木由紀子さんに心から感謝申し上げます。こんな大著を訳出するという暴挙を「やめておけ」と抑えに回るのが普通のやり方でしょう。しかし、逆に「やれやれ、イケイケ」と火をつけてこちらのエンジンを常にフル回転にしてくれた周囲の皆様にもこの場を借りてお礼申し上げます。
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