注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
BSL感染症内科レポート「感染性心内膜炎における手術の適応と時期」
感染性心内膜炎の外科的治療は、内科的治療単独では治る可能性の低い患者において推奨される。「弁機能障害による心不全の発現」「肺高血圧(左室拡張末期圧や左房圧の上昇)を伴う急性弁逆流」「真菌や高度耐性菌による感染」「弁輪膿瘍や仮性大動脈瘤形形成および房室伝導障害の出現」「適切かつ十分な抗生剤投与後も7~10日以上持続ないし再発する感染症状」を有する場合は手術が有効であり、また「可動性のある10mm以上の疣贅の増大傾向」「塞栓症発症後も可動性のある10mm以上の疣贅が観察される」場合は手術が有効である可能性が高いとされている1)2)。また脳合併症を有する場合、神経学的合併症があり、心不全・コントロール不良・膿瘍・高い塞栓リスクがあり、脳出血・昏睡・併存疾患・広範囲梗塞がなければ手術を行う3)。ICE-PCSのデータベースに登録されている1552人を対象とした多国籍コホート研究によると、感染性心内膜炎による初回入院時に手術を受けた患者(720人) の死亡率は内科的治療のみを受けた患者(832人)に比して絶対リスクが5.9%低下しており、外科的治療の有用性を表す結果となった4)。
しかし、手術の時期に関しては未だ明確に定義されていない。早期手術と従来治療の比較ランダム化試験では、左心系の感染性心内膜炎で重度の弁疾患・大きな疣贅(10mm以上)のある76人(早期手術群(37人)と従来治療群(39人))が集められ、primary endpointはランダム化後6週間以内に発生した院内死亡および塞栓イベントの複合アウトカムとした。ここで言う従来治療群とはAHAのガイドラインに乗っ取って治療され、内科的治療中に手術を要する合併症が出現した場合、または抗菌薬治療後も症状が持続する場合にのみ手術を受ける患者群である。早期手術群では全例が48時間以内に手術を受け、従来治療群では30人(77%)が手術を受けた。primary endpointの発生率は、早期手術群では1人(3%)であったのに対して、従来治療群では9人(23%)であった。6ヶ月時点での全死因死亡率では、早期手術群と従来治療群の間に有意差はなかった。また、6ヶ月時点での全死因死亡・塞栓イベント・感染性心内膜炎再発の複合endpoint発生率は、早期手術群は3%であったのに対して従来治療群では28%であった。このことから、感染性心内膜炎で10mm以上の疣贅のある患者では、従来治療と比べ、早期手術をすることによって全身性塞栓症のリスクが効果的に低下し、そのことによって全死因死亡と塞栓イベントの複合endpointも有意に減少することがわかった。これは塞栓症のリスクとなる10mmを越える疣贅を有する場合では、早期に外科的手術をする方が短期予後を良くすることを示している5)。
以上のことから、感染性心内膜炎における手術適応に関しては一定の見解が得られてきている。しかし手術時期においては現在もさまざまな研究がなされており、いまだ議論されている段階である。その中でも、感染性心内膜炎の患者で10mm以上の疣贅を持つ場合においては、従来のガイドラインに沿った治療よりも、48時間以内に手術を施行することが治療成績の向上に寄与することがわかった。
<References>
1) Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS 2008)
2) Infective Endocarditis (April11,2013 NEJM 2013;368:1425-1433)
3) Guidelines on the prevention, diagnosis and treatment of infective endocarditis(new version 2009)(ESC)
4) Analysis of the impact of early surgery on in-hospital mortality of native valve endocarditis (Circulation- Journal of the American Heart Association 2010;121:1005-1013)
5) Early Surgery versus Conventional Treatment for Infective Endocarditis(June28,2012NEJM 2012;366:2466-73)
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