注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
VZV髄膜炎の治療
VZV感染によって起こる合併症の1つとしてVZV髄膜炎がある。VZV髄膜炎はVZVの初感染あるいは免疫不全患者に潜伏していたウイルスの再賦活化時に見られやすい。フィンランドの無菌性髄膜炎患者144人を対象とした疫学研究があり、66%(95人)の患者の原因が究明でき、そのうちの8%がVZV感染によるものであったと報告されている(1)(2)。VZVは無菌性髄膜炎の原因としてはエンテロウイルス、HSV-2に次いで多く(3)、VZV髄膜炎は臨床的に少なくない疾患であるといえる。VZV髄膜炎は比較的予後良好な疾患であるため治療について以下記述する。
ランダム化比較試験が行われていないため、VZV髄膜炎にエビデンスのある治療はないが、一般的に帯状疱疹の治療に準じて行われacyclovir、valacyclovirが使用される。特に髄膜炎などの中枢神経症状が合併している場合は静注によって血中薬物濃度を高める必要があるため、acyclovir 10-15mg/kg 8時間毎の点滴静注10-14日間継続が推奨されている(1)。10-14日間の点滴加療後は内服加療に切り替える事が多い。(4)
valacyclovirはacyclovirの prodrugであり、内服されると腸管から吸収された後に主に肝臓でacyclovirに速やかに変換される。内服によるacyclovir、valacyclovirの血漿濃度を分析すべく、腎機能正常でかつ血液脳脊髄関門に障害のないMS患者10人において行われた試験がある。これによるとvalacyclovirを内服した際の血漿acyclovir濃度は同量のacyclovirを内服した際の血漿濃度の3-5倍に匹敵したという報告がある。またacyclovirの髄液濃度は血中濃度の約1/2となると報告されており(6)、valacyclovirはacyclovirに比べてより高濃度でCSFに移行するといえる。以上から、VZV髄膜炎における治療としてacyclovir 14日間の点滴静注、その後内服加療としてvalacyclovirの経口投与が有用でないかと考える。
なお、acyclovirに対して耐性を持つVZVがHIV患者において報告されており注意を有する。帯状疱疹を発症したHIV患者10人から採取されたVZVについて行われた分析によれば、帯状疱疹の治療を開始して平均20.1週後に10人のHIV患者から11種類のアシクロビル耐性VZVが検出された。これは、慢性的にacyclovirを使用している場合VZVのチミジンキナーゼに変異が起こりやすいため、チミジンキナーゼが不完全になるか、あるいは基質特異性に変化が生じてしまうことによる。小規模な試験ではあるが、検出されたVZV耐性ウイルス全てがfoscarnetに対しては感受性があった(5) (7)。よってacyclovirによる治療が不良あるいは治療後再発して耐性ウイルスが検出された場合、foscarnetを静注投与して対処することが検討される。
【参考文献】
(1) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases
(2) Etiology of aseptic meningitis and encephalitis in an adult population, Neurology Jan 10, 2006 vol. 66 no. 1 75-80
(3) Infection of the central nervous system caused by varicella zoster virus reactivation: a retrospective case series study, J Infect Dis 2013 Jul;17(7):e529-34
(4) Up to date「Aseptic meningitis in adults」
(5) Phenotypic and genotypic characterization of acyclovir-resistant varicella-zoster viruses isolated from persons with AIDS. J Infect Dis. 1994 Jul;170(1):68-75.
(6) Acyclovir Levels in Serum and Cerebrospinal Fluid after Oral Administration of Valacyclovir. ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY, Aug. 2003, p. 2438–2441
(7) Herpes Zoster, NEJM.369;3, July19,2013
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。