注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
結核性胸膜炎について
- 病態
結核性胸膜炎は2009年の統計では肺外結核新規登録患者のうち52.3%(3940人/7534人)を占めておりもっとも頻度が高い3)。病理発生的には、①結核菌感染に引き続き、初期変化群の初感染原発巣またはリンパ節巣から、菌あるいは炎症がリンパ行性もしくは連続性に波及して感染後6〜12ヶ月の間に生じる突発性胸膜炎、②結核菌が血行性に散布して両側胸膜、心膜、腹膜を次々と侵す多獎膜炎の一部としての胸膜炎、③慢性肺結核の悪化の際に炎症が胸膜に波及して派生する随伴性胸膜炎の3つに分類される。臨床症状は胸痛、呼吸困難、咳嗽、発熱が多く見られるが、胸水が少量で気づかれないまま自然寛解することもある1)。
- 診断
結核性胸膜炎の診断はまず結核の既往や、暴露歴がないかなどを問診することから始まる。打診や聴診により胸水の存在を認めれば、胸水の原因探索のために胸腔穿刺を行い胸水の性状を調べる。結核性胸水は淡黄色でときに血性となり、滲出性である。pHは7.3〜7.4ないしそれ以下のことが多く、胸水LDHは一般的に500IU/L以上となり、胸水グルコース値は通常60〜100mg/dlだが、時に一部で低下し、血清総蛋白比は0.5以上となる5)。胸水中蛋白は3.0g/dl以上で癌性胸膜炎などと比較して高値を示し、糖は癌性胸膜炎より低い。初期の好中球優位を除いて、60〜90%の症例でリンパ球優位となる5)。胸水のADA活性の測定はスクリーニングとして有用である。ADA活性が高い疾患はリウマチ、膿胸、中皮腫、肺癌、肺炎による胸水なども考えられるが、ADA活性が40IU/L以下であれば結核性胸水を除外できる7)。胸水中のIFN-γの測定もまた診断に有用で、感度89%、特異度97%と報告するメタアナリシスがある6)。
結核性胸膜炎の確定診断は胸膜炎が結核菌によって生じていることを証明しなければならない。それには、胸水や胸膜からの塗抹培養、拡散増幅法を用いた結核菌検出、胸膜生検材料で乾酪性類上皮肉芽腫所見の存在の証明が必要である。胸水の抗酸菌染色と培養のみでは感度は10%以下であり2)、胸膜生検による病理検査と培養の併用は60〜95%の診断率を示し、検体の標本数が増えるほど感度は上昇する5)。肉芽腫は、サルコイドーシスのように非乾酪性肉芽腫のように見えることもある。
- 治療
治療は肺結核治療に準じる。結核性胸膜炎は、治療しなければ5年以内に65%の患者が肺または肺外結核を生じたという報告がある5)。そのため、排菌が確認されない結核性胸膜炎であっても肺結核に対する治療は必要である。また、原因不明の滲出性の胸膜炎では常に結核性胸膜炎を鑑別に入れなければならない。
参考文献:
(1)ハリソン内科学 第4版 (2)レジデントのための感染症診療マニュアル 青木眞
(3)財団法人結核予防会結核研究所疫学情報センター:結核の統計. 登録時結核病類別患者数. 新登録者数─登録時結核病類. 性別(年齢総数)
(4) 感染症学雑誌 第76巻 第 1 号 76:18~22,2002 当院における結核性胸膜炎の臨床的検討 東邦大学第一内科,同 第二内科
(5) Up to date: Tuberculous pleural effusions in HIV-negative patients; Michael D frye,MD, Steven A Sahn, MD: updated;Jul 16,2012
(6) Diagnostic value of interferon-gamma in tuberculous pleurisy: a metaanalysis; Jiang J, Shi HZ, Liang QL, Qin SM, Qin XJ
(7) Diagnostic value of adenosine deaminase in nontuberculous lymphocytic pleural effusions.; Jiménez Castro D, Díaz Nuevo G, Pérez-Rodríguez E, Light RW
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。