注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
人工弁における心内膜炎の起炎菌、発生率と初期治療
人工弁における心内膜炎(以下、PVE)は一般的ではないが、心臓血管系の手術後の合併症として重要である。弁置換術を受けた患者は、健常人に比べ50倍感染性心内膜炎に罹患しやすい。治療しにくい病原体が原因になりやすく、抗菌薬治療に耐えられない合併症を多く持った高齢者もよく罹患する。術後どれくらいの時期にどの程度の頻度で発症するかについて今回調べた。
PVEは弁置換術からの日数でEarly-Onset PVE(早期発生PVEとする)とLate-Onset PVE(晩期発生PVEとする)に大別することができる。
発症については、術後2ヶ月までをピークとして6ヶ月ごろから徐々に下降する。手術から内皮細胞が増殖するまでの間は感染に弱いと考えられている。長期的な発生率は、最初の12ヶ月は1.0~3.1%であり、5年以内に発症するのは3.0~5.7%である(表1)。術後1年間では、大動脈弁と僧帽弁の間、機械弁と生体弁の間に発症率の差はないが、術後18ヶ月で見ると、生体弁のほうが機械弁よりもPVE発症のリスクが高い。
現在、早期PVEは1970年代に比べて著しい減少傾向にあり、PVE全体の60%程度あったものが10~20%にまで減少している。理由としては衛生状態の向上、予防的抗菌薬の使用、弁の進化、手術技術の向上があげられる。
起炎菌に差があるという報告もある。早期、晩期とも発生では最も頻度の高いものはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(表皮ブドウ球菌)と黄色ブドウ球菌であり、晩期発生ではレンサ球菌と腸球菌が次いで多くなっている。MRSAは晩期よりも早期で割合が高い(表2)。頻度は地域間の差が大きい。
早期と晩期で起炎菌に差がある。したがって、培養結果が出るまでのエンピリカルな治療はESCのガイドラインでは、早期はバンコマイシン(30mg/kg/day、静注、6週)+ゲンタマイシン(3mg/kg/day、静注もしくは筋注、2週)+リファンピシン(1200mg、経口)が推奨されている。一方晩期は、アンピシリン-スルバクタム(12g/day、静注、4~6週)+アモキシシリン-クラブラン酸(12g/day、静注、4~6週)+ゲンタマイシン(3mg/kg/day、静注or筋注、4~6週)となっている。英国のガイドラインでは、バンコマイシン(1g、静注、腎機能によって調整)+リファンピシン(300~600mg、経口)+ゲンタマイシン(1mg/kg、静注)を原因菌が特定できるまでとなっている。
(表1)②より (表2)①より(早期<60日)
参考文献
① Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed. p.1113~1115
② UpToDate:Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis of prosthetic valve endocarditis 2014/7/29閲覧
③ Long-Term Safety and Effectiveness of Mechanical Versus Biologic Aortic Valve Prostheses in Older Patients, Circulation. 2013; 127: 1647-1655; J. Matthew Brennan, et al.
④ Contemporary Clinical Profile and Outcome of Prosthetic Valve Endocarditis, JAMA. 2007; 297(12):1354-1361, Andrew Wang, MD, et al.
⑤ ESC Guidelines. Guidelines on Prevention, Diagnosis and Treatment of Infective Endocarditis (new version 2009)
⑥ Guidelines for the antibiotic treatment of endocarditis in adults:report of the Working Party of the British Society for Antimicrobial Chemotherapy
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