注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
手術部位感染症SSIの原因菌とエンピリック治療
手術部位感染症SSIは外科手術に関連して手術後に発生した感染症である。感染の部位は表層切開部位の創感染だけでなく手術操作の加わった深部臓器や体腔を含む。アメリカ疾病管理予防センターCDCのNational Healthcare Safety Network (NHSN)へ報告されたデータによると、SSIの原因菌は黄色ブドウ球菌30%、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌14%、腸球菌11%、大腸菌10%、緑膿菌4%である。1)手術創は清潔度別に清潔手術、準清潔手術、汚染手術、感染手術に分類される。清潔手術の場合、SSIの原因となるのは連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌を含む皮膚常在菌が多い。準清潔手術では上記に加えてグラム陰性桿菌や腸球菌が原因菌として挙げられる。1)2)原因菌種の同定だけでなく抗菌薬への感受性を調べる必要がある。例えばMRSAは黄色ブドウ球菌を原因とするSSIの50%を占める。1)抗菌薬の投与を考慮する際には菌が薬剤耐性を持つ可能性があることを念頭に置かなければならない。
2014年6月にIDSAから皮膚軟部組織感染症の診断とマネジメントに関するガイドライインが出ている。術後に発熱を来した場合、術後2日以内の発熱の原因には感染症である可能性が低い。ただし全身症状を有し、創部から分泌物が認められる時にはクロストリジウムや連鎖球菌感染症を考えてグラム染色する。どちらかの菌が検出された場合は創部を開放してデブリドマンを行い、ペニシリンまたはクリンダマイシンを開始する。連鎖球菌とクロストリジウムのどちらも検出されなかった場合、熱の原因が感染症以外である場合も考慮する。3)術後2日から4日までの発熱の原因がSSIであるか別の原因に起因するかは同程度の可能性で考えられる。診断および治療は術後2日以内の発熱の場合と同様のアルゴリズムに基づいて行われる。3)
術後4日以降の発熱で創部の発熱と硬化を認めた場合は縫合糸の抜去と創部切開およびドレナージを行う。抗菌薬投与はルーチーンで行わないが、全身性の症状(創部から直径5cm以上の紅班と硬化、体温38.5℃以上、脈拍110bpm以上、WBC12000/µl以上)が認められる場合はドレッシング剤を交換し、抗菌薬の投与を考慮する。頭部、頚部、体幹、四肢の清潔手術の場合はセファゾリンを選択する。もしくは鼻腔内にMRSAを保有している場合やMRSA感染の既往があるなど、起因菌がMRSAである可能性が高い場合はバンコマイシン、リネゾイド、ダプトマイシンを選択する。腋窩、会陰部の手術後の感染の場合はグラム陰性菌や嫌気性菌による感染を考慮し、シプロフロキサシンまたはレボフロキサシンまたはセフトリアキソンをメトロニダゾールに追加して投与する。またMRSAに対するバンコマイシンが必要な場合もある。3)
1) Hidron AI et al. NHSN annual update: antimicrobial-resistant pathogens associated with healthcare-associated infections: annual summary of data reported to the National Healthcare Safety Network at the Centers for Disease Control and Prevention, 2006-2007. Infect Control Hosp Epidemiol. 2008 Nov;29(11):996-1011.
2) Up to date:Deverick J Anderson, MD, MPH ;Antimicrobial prophylaxis for prevention of surgical site infection in adults In: UpToDate last updated: May 08, 2014.
3) Dennis L. Stevens et al. ;Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Skin and Soft Tissue Infections: 2014 Update by the Infectious Diseases Society of America Clin Infect Dis.(2014) First published online: June 18,2014
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