注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「腹痛・下痢を訴える患者へのアプローチ」
アプローチとしてまず大切なのは問診で、しっかりと海外渡航歴やOPQRSTをふまえて問診を進めていく。痛みの場所は患者さん自身で指してもらうことも大切である。今回下痢も訴えることより以下のような疾患を挙げてみた。
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腸管外が原因 |
腸管内が原因 |
非感染症 |
内分泌・代謝系‥甲状腺クリーゼ、副腎不全、糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症、ホルモン分泌腫瘍、高カルシウム血症、AIP 消化器系‥膵炎、膵腫瘍 その他‥妊娠悪阻、子宮外妊娠、熱中症、尿管結石症、一酸化炭素中毒、ストレス |
薬剤性(CDIなど)、食餌性アレルギー、消化性潰瘍、腸管虚血(虚血性腸炎、腸間膜血栓塞栓症)炎症性腸疾患(Crohn病、潰瘍性大腸炎)、腸リンパ腫、上部・下部消化管悪性腫瘍、吸収不良症候群、過敏性腸症候群、中毒(農薬、重金属、毒キノコ、ヒスタミン等) |
感染症 |
敗血症一般、TSS(黄色ブドウ球菌)等Toxin関連疾患 後腹膜・骨盤腔内‥PID、卵管膿瘍、腸腰筋膿瘍、虫垂炎破裂後膿瘍 肝・胆道系‥肝炎、胆管炎、胆嚢炎 腎・尿路‥腎盂腎炎、腎膿瘍 肺‥横隔膜付近の肺炎、異型肺炎 その他‥小児中耳炎、熱帯熱マラリア |
小腸型‥ノロウイルス、非チフス性サルモネラ、毒素原生大腸菌、コレラ、セレウス菌、黄色ブドウ球菌、ウェルシュ菌
大腸型‥腸炎ビブリオ、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌、細菌性赤痢、エルシニア
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時間軸による分類もあり、発症から2週以内の下痢を「急性」、4週以上持続するものが「慢性」と分類する。急性の場合重要なのは脱水状態かどうかの確認が必要である。
2週以内の急性下痢は警告症状があれば、炎症性腸疾患、腸管出血性大腸菌感染を考え、2週を超えてくると寄生虫やジアルジア症(ランブル鞭毛中症)なども鑑別疾患に入ってくる。4週を超えるものでは警告症状がなければ過敏性腸症候群、乳糖不耐症で、ある場合は便量を調べて、多量の水様便があればカルチノイド症候群、セリアック病などで、少量だが高頻度の排便だと潰瘍性大腸炎、感染性赤痢などである。
【参考文献】
Martin RF,Rossi RL.The acute abdomen;an overview and algorithms.Surg Clin North Am.1997;77;1227~1243
青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 医学書院
林寛之:腹痛の診断戦略 羊土社 Marc S.Sabatine:Pocket Medicine MEDSi
ローレンスティアニー、マークヘンダーソン:聞く技術上 日経BP社
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