E.coliとβラクタマーゼについて
抗菌薬に対する耐性菌の出現は医療における大きな問題の一つである。特に日常診療で最もよく使用されるβラクタム系抗菌薬に対する耐性菌の出現は感染症治療を困難にしている。βラクタム系抗菌薬に耐性を示す機構の一つとしてβラクタマーゼの産生が挙げられる。細菌が抗菌薬に対して耐性を示す機構は多様であるが、βラクタマーゼはβラクタム環を加水分解することによってβラクタム系抗菌薬を不活化し、耐性を示す。その活性は非常に強く、例えばE.coliはTEM-1型βラクタマーゼを産生することによりアンピシリンのMICを8μg/mLから10000μg/mL以上にまで増加させる。
βラクタマーゼは現在までに500以上の種類が発見されており、その分類にはAmbler分類がよく使用される[表1]。Ambler分類はβラクタマーゼをアミノ酸配列の類似性によって4つクラスに分類する。クラスA、C、Dはセリンを酵素活性の中心に持つためセリンβラクタマーゼと呼ばれ、クラスBはその活性発現に金属イオンであるZn2+を必要とするためメタロβラクタマーゼと呼ばれる。
表1 Ambler分類
クラス |
別称 |
主な獲得方式 |
主な型 |
A |
ペニシリナーゼ |
プラスミド性 |
TEM-1、SHV-1、CTX-Mなど |
B |
カルバペネマーゼ |
プラスミド性 |
L-1、CcrA |
C |
セファロスポリナーゼ |
染色体性 |
AmpC |
D |
オキサシリナーゼ |
プラスミド性 |
OXA-1 |
細菌が耐性を獲得する方式には染色体DNAの変異と薬剤耐性遺伝子を有するプラスミドの伝播によるものがある。クラスCは染色体性に、その他のクラスはプラスミド性に獲得されることが多い。Rプラスミドは耐性遺伝子の他に接合に関する遺伝情報を有しており、細菌間の接合を通じて他の菌に遺伝子を拡散することができる。そのためプラスミド性の耐性遺伝子は染色体性に比べて増加が早い。
E.coliに認められるβラクタマーゼはクラスAおよびDであることが多い。実は大腸菌を含む殆ど全てのグラム陰性桿菌は染色体上にクラスCの遺伝子を有しているが、大抵の場合その発現はごく少量であるか全くない。しかしプロモーターや調節遺伝子の変異などによって遺伝子発現が亢進し、薬剤耐性を獲得することがある。近年、特に欧米では、クラスAの基質の範囲が拡大されたExtended Spectrum Beta Lactamases(ESBLs)を産生するE.coliが問題となっている。ESBLsはクラスAでありながらセファロスポリン系やモノバクタム系の抗菌薬を分解することができる。臨床現場では感受性検査にて第三世代セフェムやアズトレオナムのうちどれかが耐性である、あるいはMICが高くなっている場合にESBLs産生菌を疑うことが多い。
今後、βラクタマーゼ産生菌は増加していくことが予想される。細菌の感受性検査を見て異変に気付いた場合はESBLs産生菌を含む耐性菌を疑うことが必要である。
参考文献
1)Patrick R.ら (2007)『Manual of Clinical Microbiology』(9th edition) Amer Society for Microbiology社 2256pp
2)岩田健太郎ら (2012)『抗菌薬の考え方、使い方』(Ver.3) 中外医学社 574pp
3)Jacquelyn G. Black (2011)『Microbology: Principles and Exploration』(8th edition) Wiley社 968pp
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