衆議院選挙が終わった。このことについてちょっとコメント。
自民党の圧勝に終わった今回の選挙であるが、小選挙区制故に「民意が反映されていない」という意見がある。確かに投票率と当選議員数のバランスはよろしくない。とはいえ、「民意が反映されていない」わけではない。各選挙区での民意の反映の総合が今回の選挙である。「自民党は勝った数ほど評価はされていない」のは事実かもしれないが、「実は民主党や共産党の方が評価が高い」わけではない。あくまでdegreeの問題なのだ。
だから、どう言い訳しても自民党以外の各党は自民党ほどは評価されなかったのである。これは厳然たる事実と言ってよいだろう。
とはいえ、自民党も前回選挙よりも獲得投票は減っている。自民党も評価を落としたのである。その落ちっぷりよりも遥かにひどい落ちっぷりを示したのが他の政党なのである。これが極めて顕著だったのが民主党だった。ま、というか2009年がバブルだったのであり、当時政治家になるべきではなかったような人物がなし崩しに政治家になっちゃったのが平たくならされた、ということなのかもしれない。投票率は極めて低く、それは若年層においてとくにそうであった。
このことを、ぼくはまずいと思ったが、数日のクールダウン期間を置いた今、実は好ましい現象ではないかとすら思うようになっている。
投票をドライブするのは政治への期待である。でも、それは言い換えれば「政治への依存」といってもよい。さらに言えば、「俺に対する利得への期待」かもしれない。組織票はその象徴である。
若年層で投票しなかった人は、少なくとも政治への依存度が低い。「俺に対する利得への期待」ももちろんない。組織票的インタレスト、、、、俺たちは得したい、、、他の人は置いておいて、、、もない。
ぼくは、日本社会の問題点は相互依存構造にあるとずっと言ってきた。「おかみなんとかしてくれ」とおかみ丸投げする国民と、「おれがいなくちゃ、お前ら何もできないよな」と胸を張り、できることもできないこともしょいこんでしまう官僚との相互依存。その官僚にべったりだったのが自民党であり、その官僚を全否定しようとしてコケたのが民主党であった。
少なくとも、今の若者は政治家や官僚に期待していない。民主党みたいに官僚バッシングすらしない。それは、デタッチメントである。政治、官僚にべったりずるずるのおかみ依存体質、俺さえよければの組織票的インタレストから無縁である。以前よりも「ましになった」メンタリティーと肯定的に受け止められなくも、ない。
各候補者は、「このままでは日本はダメになる」と危機を煽った。消費税が上がり、原発が維持され、TPP交渉に参加し、国防軍を作り、憲法改正し、、、日本はめちゃくちゃになると、煽る。しかし、本気の本気の本気では、みんな日本はダメだとは思っていない。本気の本気でそう思っているのなら、たとえばシリアの人たちみたいに国を見捨てて逃げる人が続出するはずだ。本音の本音では、「それでも日本にいる方がまだまし」と思っている人が圧倒的多数であるのが事実だ。飢饉もなければ餓死もなく、お金がなくても病院で医療を受けられ、学校で銃乱射が定期的に行われることもない国なのである。日本では、流民も暴動も革命も起きていないし、たぶんこれからも起きる可能性は低い。
もちろん、ここで止まっていてはだめである。いくらデタッチしていても、目を背けても、政治と無縁で生きていける程世の中は甘くない。潜在的なリスクは大きく、そこからは目を背けられないし、背けていてもいずれは立ち向かわねばならないリスクである。日本では流民こそ少ないが、少子化というのは要するに、消極的な流民である。プロスペクトがない、今日より明日がよくなる期待はほとんどゼロ(少なくとも感覚的には)、という事実には変わりはない。
だから、もう一山越える必要は、ある。しかしながら、このデタッチメントは次への布石としては、重要な布石であったのだと僕は思っている。
全然話は変わるけど、「一票の格差」。本質的には何が問題なんですかね。違憲だから、とか人権がうんちゃらとかいうのは、あくまで形式的な問題である。では、本質的になにが問題なのだろう。だって、あの格差はいったい誰に実利をもたらし、だれが損しているのでしょう。よう考えてみると、分からない問題だと思いませんか。「アメリカ依存をやめましょう」という共産党が、アメリカが作った憲法を頑に守りたいという奇妙な主張ぐらい、一票の格差は僕には理解しづらい問題です。だれか、教えて?
いつも興味深く拝見しております。精神科医師です。
一票の格差についてですが、これが問題になるのは、政党(など)の得票率と、その獲得議席数が一致しないからではないでしょうか(政党でなく、政策別の賛否の割合でも可)。これらが一致しない場合、民意と政策が一致しないため、政権や政策の正当性が怪しくなります。
たとえば憲法改正を例に上げるならば、憲法改正の発議には両院の総議員の2/3以上の賛成が必要ですが、仮に日本国民の賛否が半々だったとしても、賛成する有権者が多い地域(そういう地域があるとして)に選挙区を細かく割りつければ、賛成議員の数を2/3以上にすることも不可能ではありません。日本ではそこまで露骨な票の誘導はなかったと思いますが、アメリカではゲリマンダーという実例があります(厳密にはゲリマンダーは一票の格差ではなく選挙区の形を利用した手法ですが)。
そもそも投票率が低いのに正当性もヘッタクレもない、という意見もありますが(オーストラリアなどは投票率が低すぎると自動的に無効になるそうですが)、それはそれで別に解決すべき問題ではあります。
いずれにせよ、日本の民主主義は未だ未成熟ということだと思います。
投稿情報: Sayoarashi | 2013/01/23 20:57