注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
心因性発熱とは、ストレスによって深部体温が正常範囲の体温の上限を上回ることである。
心因性発熱に関する日本の疫学については、平均年齢が33.6歳であり、11~15歳と26~30歳にピークがみられ、男女比は1:2.2で女性が多かったという報告がある。1)
体温上昇反応を引き起こすようなストレスに慢性的にさらされた場合の解熱薬抵抗性の高体温症の中には,うつ病の有無に関わらずパロキセチン2)、フルボキサミン3)などの選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)が有効な症例が存在した。慢性ストレス状況で微熱を生じるようになった患者にパロキセチンを投与したところ、1日の最高体温が有意に低下した報告がある。2)したがって、慢性ストレスによって微熱程度の体温上昇が生じる機序の1つとして、脳内セロトニン神経系の機能低下が考えられる。ストレスによる体温上昇反応の機序は感染,炎症に伴う発熱反応とは異なり、プロスタグランジンE2、EP3受容体に依存しない機序を介して生じるため、4)シクロオキシゲナーゼを阻害し、血管透過亢進に関するプロスタグランジンの合成を抑制するNSAIDsは急性ストレスによる体温上昇反応に対して効果がないという報告もある。5)
心因性発熱には、パロキセチン、フルボキサミンだけではなく、安定剤や抗うつ薬、睡眠薬など、ストレスに対する薬が有効な例もある。6) また、薬物療法だけではなく、睡眠時間を十分にとるなど、ストレスの原因の解決や、ストレスを上手く処理することが治療につながる。
健常人でも体温が37℃台という人もいるにも関わらず、心気熱を治療するメリットとしては次の事が考えられる。心因性発熱には、頭痛、倦怠感など不快な自覚症状が伴う。また、発熱の背景にある心理的ストレスが長期間持続すると、うつ状態になる可能性があるので、そのようになる前に心因性発熱患者自身にストレスが多い状態であることを自覚させ、精神的に安定を保つことのできるようにストレスの原因を解決する、ストレスを上手く処理することを学ばせるなどによって、うつ病になることを回避できる。
最後に、心因性発熱を疑うような所見、具体的には、血液検査での炎症反応がない、解熱薬が無効、手掌足底のみの発汗、不眠、重症感に乏しい、5)があったとしても、心因性発熱と判断するためには、不明熱の概念を理解し、心因性発熱として扱われがちな家族性地中海熱やTNF受容体関連周期性発熱症候群などの比較的珍しい疾患の除外が必須である。
1)当科を受診した心因性(ストレス性)発熱患者の性差、年齢分布と外来患者に占める割合
Author:金田悠子(産業医科大学 神経内科心療内科部門), 知場奈津子, 高橋昌稔, 林田草太, 米良貴嗣, 兒玉直樹, 岡孝和, 辻貞俊、Source:心身医学(0385-0307)49巻11号 Page1219-1220(2009.11)
2)岡 孝和,金田悠子,武永雅樹,他:慢性のストレス状況で生じた微熱に対する塩酸パロキセチンの有用性に関する検討.日心療内誌 10:5-8,2006 3)金田悠子,岡 孝和,橋本朋子,他:マレイン酸フルボキサミンが有効であったストレス性と考えられた微熱の1例.心療内科 10:349-353,2006
4) Oka T,Oka K,Kobayashi T,et al:Characteristics of thermoregulatory and febrile responses in mice deficient in prostaglandin EPI and EP3 receptors.JPhysiol 551:945-954,2003
5)慢性的なストレス状況で生じる微熱の病態と治療 http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/new_page_416.htm
6)心療内科医 岡孝和のホームページhttp://okat.web.fc2.com/
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