注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「IEの手術適応とCVC併発時の手術時期」
感染性心内膜炎(IE)とは、心内膜に細菌が感染する事で、疣贅形成、菌血症が持続、多彩な症状を呈する全身性敗血症性疾患である。起炎菌としては、レンサ球菌や黄色ブドウ球菌が多い。IEの診断は改訂Duke診断基準(2005年)が用いられる(1)。IEの心臓内、および脳血管合併症(CVC: cerebrovascular complications)は、感染に伴う罹病と死亡の重要な原因であり、場合によっては外科手術を必要とする(1)。その適応は右表のように表されているが、絶対的なものではなく、そのタイミングと危険性および利点は、各個人に合わせる必要がある(1)。
CVCの内の一つに塞栓がある。術中には抗凝固療法を行う必要があり(機械弁では術後も)出血のリスク等があるため、1990年代半ばに出されたstudyでは、CVCのある患者では、塞栓イベントの後少なくとも2週間経過後に手術する事が推奨されていた(3)。一方で最近はイベント後早期の手術が可能ではないかという報告がある。
Ruttmannらは無症状のCVCを持つIE患者の内、発症4日以内の早期に手術を行った群と、4日以上経過した後に手術を行った群を比較したが、合併症率・術後の神経学的所見の回復に関しては両群に有意差は認められなかった (4)。また、体系的な脳画像診断によって無症候性脳梗塞が増加しているが、CVCのあるIE患者が弁置換術を行った場合、神経学的症状の悪化頻度は6.3%とまれであり、この中には無症候性脳梗塞やTIAの患者は含まれていなかった(5)。脳梗塞のあるIE患者での比較では、3日以内に手術した群の方が手術しなかった群より予後良好であり、8日以降に行った群では予後不良であったという報告もある(6)。一方で出血などのCVCであった場合は周術期の死亡頻度が高いと報告されている(4)。これらの研究を受けて、European Society of Cardiology (ESC)では以下のように各患者の状態により、手術時期の決定を行うことが推奨されている(7)。
・無症候性の脳塞栓や一時的な虚血性発作の後は、徴候が残っていても早期に手術をするべきである。
・脳卒中後、心不全の適応である手術、コントロール不可の感染、膿瘍、持続する高い塞栓リスクのある場合は早期に手術をするべきである(昏睡状態の患者を除く)。
・頭蓋内出血が存在する場合は、少なくとも1ヶ月手術を延期すべきである。
IEの手術適応、手術時期については合併症の存在やその程度によって決定される。個々の症例に応じて正確な評価を行い、タイミングを逃さない事が大切である。
【References】
(1)ハリソン内科学第3版/福井次矢,黒川清著/メディカルサイエンスインターナショナル p.830
(2)Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS2008)
(3)Eishi K, et al: Surgical management of infective endocarditis associated with cerebral complications. Multicenter retrospective study in Japan. /J Thorac Cardiovasc Surg 1995, 110:1745-1755.
(4)Ruttmann E et al: Neurological outcome of septic cardioembolic stroke after infective endocarditis. /Stroke 2006,37:2094-2099
(5)Thuny F, et al: Impact of cerebrovascular complications on mortality and neurologic outcome during infective endocarditis: a prospective multicentre study. /Eur Heart J 2007, 28:1155-1161.
(6)Piper C, et al : Stroke is not a contraindication for urgent valve replacement in acute infective endocarditis. /J Heart Valve Dis 2001, 10:703-711.
(7)Habib G, et al: Guidelines on the prevention, diagnosis, and treatment of infective endocarditis (new version 2009): /Eur Heart J 2009, 19:2369-2413.
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