注意！ これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
２０１６年７月１５日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計５時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、５時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
小児急性骨髄炎治療において、静注から内服抗菌薬への適切な切替時期はいつか
骨髄炎の治療の基本は経静脈的な抗菌薬の投与である(1)。小児の急性骨髄炎の抗菌薬治療では、患者の年齢、基礎疾患、原因と考えられる病原体とその薬剤感受性、抗菌薬の薬物動態、抗菌薬の効果や安全性を考慮して投与レジメンを決定する必要があり、その投与期間は3〜6週間が推奨されている(2)。しかし、抗菌薬を長期に渡って静注することで、入院の長期化やコスト負担の増加などの不利益も生じる(4)。入院の長期化は、特に小児患者にとって大きな負担であると感じた。そのため、抗菌薬の投与方法の、静注から入院の必要のない経口投与への切り替えを考慮する必要があると考えた。そこで、小児急性骨髄炎治療において、抗菌薬の静注から経口投与への適切な切替時期はいつかについて検討した。
ANZPID-ASAP group (The Australian and New Zealand Pediatric Infectious Diseases Australasian Stewardship of Antimicrobials in Pediatrics group)は、複数の研究結果を比較し、小児の細菌感染に対する抗菌薬治療の継続期間と静注から経口投与への切替に対するガイドラインを発表した(3)。それによると、複合感染のない小児急性骨髄炎治療において、抗菌薬を7日間以下もしくは3〜4日間静注で投与後に経口投与に切り替えた場合と、長期間静注で投与した場合での治癒率は同等であるとしている。
Batchelder Nらは、小児の複合感染のない急性骨髄炎に対して、いつ、どのように抗菌薬の投与を静注から経口に切り替えるべきかを検討するために、11の論文を対象としたシステマティックレビューを行った(4)。その結果、抗菌薬を静注で短期間投与後に経口投与に切り替えた場合と、長期間静注した場合では、その治療効果に差はなかった。このレビューでは、抗菌薬の静注を3~７日間行った後、熱感、局所の圧痛、全身状態などが改善した場合、経口投与に切り替えることを推奨している。この時、血液検査結果の中で、特にCRPが2~3mg/dlを下回っているることは、切替を考慮する判断材料の一つになると述べている。
以上より、小児急性骨髄炎の抗菌薬治療において、抗菌薬の静注から経口への適切な切替時期は、静注での抗菌薬投与後3~7日間後であると結論付けられる。しかし、切替時期を決定する際には、それまでの静注での投与期間に加え、熱感や痛み、腫脹などの局所の炎症徴候がなくなっているか(2)、血液検査結果が改善しているか(2) (4)、患児が抗菌薬をきちんと経口で飲めるか(2) (3)を確認することも同時に大切である。
(1) 青木 眞. レジデントのための感染症診療マニュアル Principles & Practice 第3版. 医学書院. 2015
(2) Sarah S. Long, Larry K Pickering, Charles G Prober. Principles and Practice of Pediatric infectious diseases fourth edition. Elsevier Saunders. 2012
(3) McMullan BJ, Andresen D, Blyth CC, Avent ML, Bowen AC, Britton PN, Clark JE, Cooper CM, Curtis N, Goeman E, Hazelton B, Haeusler GM, Khatami A, Newcombe JP, Osowicki J, Palasanthiran P, Starr M, Lai T, Nourse C, Francis JR, Isaacs D, Bryant PA; ANZPID-ASAP group. Antibiotic duration and timing of the switch from intravenous to oral route for bacterial infections in children: systematic review and guidelines. Lancet Infect Dis. 2016 Aug;16(8):e139-52
(4) Nathan Batchelder, Tsz-Yin So et al. Transitioning antimicrobials from intravenous to oral in pediatric acute uncomplicated osteomyelitis. World J Clin Pediatr. 2016 Aug 8;5(3):244-50.
寸評：テーマは秀逸ですし、情報の吟味、結論の導き方とお手本になるようなレポートでした。良かったと思います。
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