「E. faecalisによる感染性心内膜炎の治療で、セフトリアキソンをゲンタマイシンの代替薬としてアンピシリンに併用する治療法は有効かどうか」

注意！　これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、（我々には若干異論があったとしても）あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで

感染症BSLレポート　　　　　　　　　　　　　　　　　　

「E. faecalisによる感染性心内膜炎の治療で、セフトリアキソンをゲンタマイシンの代替薬としてアンピシリンに併用する治療法は有効かどうか」

　E. faecalis 感染症治療の第1選択薬はペニシリンGやアンピシリンである。さらに心内膜炎や髄膜炎などの重症のE. faecalis 感染症では、アミノグリコシド系薬のゲンタマイシンを併用することで殺菌的なシナジー効果を期待することができ、治療効果を向上させることができる。（1）

　しかし、アミノグリコシド系に対する高度耐性菌の存在や、その副作用（腎毒性など）の出現によって、臨床上アミノグリコシド系の薬が使用できない場合がある。今回は、アミノグリコシド系薬の代替薬としてセフトリアキソンをアンピシリンに併用する治療法があり、この治療法が有効であるのかどうか疑問に思い、文献をもとに検証してみた。

　Joan Gavaldàらによって行われたスペインの13施設での多施設共同の非ランダム化試験では、21人のHLAR（アミノグリコシド系高度耐性）のE. faecalisによる感染性心内膜炎患者と、22人のnon-HLAR （非アミノグリコシド系高度耐性）のE. faecalisによる感染性心内膜炎患者に対して、アンピシリン＋セフトリアキソン（AC）による治療が行われた。その結果、3ヶ月後に臨床的治癒が得られたのは67.4%（43例中29例）で、治療プロトコルを完遂できたHLARのE. faecalisによる感染性心内膜炎患者の臨床的治癒率は100%であった。（2）

Nuria Fernández-Hidalgoらによって行われたスペインの17施設とイタリアの1施設での多施設共同の非ランダム化比較試験では、E. faecalisによる感染性心内膜炎と診断された291人の成人患者（18歳以上）が登録し、159人（55%）がアンピシリン＋セフトリアキソン（AC）で、87人（30%）がアンピシリン＋ゲンタマイシン（AG）による治療を受け、その結果が比較された。両群の患者背景で、慢性腎不全、移植、悪性腫瘍、HIV感染、医療関連感染症の既往に関しては有意差があり（p<0.05）、いずれもAC群の方が高かった。研究の結果、AC群とAG群で治療された感染性心内膜炎患者の間では、治療期間中に両群での死亡率に有意差は見られなかった(22% vs 21%, P = .81)。また、治療終了後から3ヶ月の経過観察の期間でも両群での死亡率に有意差は見られなかった (8% vs 7%, P = .72)。一方で、有害事象によって抗菌薬の変更が必要となった数はAG群の方が多く (25% vs 1% , P < .001)、これは主に新規発症した腎不全によるものであった(23% vs 0%, P < .001)。（3）

　（2）の研究から、HLARのE. faecalisによる感染性心内膜炎に対してAC治療が有効であり、（3）の研究から、E. faecalisによる感染性心内膜炎に対するAC治療はAG治療と同等の治療効果があり、また治療薬を変更する必要のある副作用の出現はAG治療に比べて有意に低いと考えられる。以上のことから、E. faecalisによる感染性心内膜炎の治療で、ゲンタマイシンの代替薬として、セフトリアキソンをアンピシリンと併用する治療法は有効であると考えられる。

（参考文献）

（1）レジデントのための感染症診療マニュアル第３版　青木眞　医学書院

（2）Joan Gavaldà, et al. Brief Communication : Treatment of Enterococcus faecalis Endocarditis with Ampicillin plus Ceftriaxone. Ann Intern Med. 2007 Apr 17 ; 146(8):574-9

（3）Nuria Fernández-Hidalgo, et al. Ampicillin Plus Ceftriaxone Is as Effective as Ampicillin Plus Gentamicin for Treating Enterococcus faecalis Infective Endocarditis. Clin Infect Dis. (2013) 56 (9): 1261-1268